EFGさんの作品

人形−4.唯


夏休みの終わりに、唯ちゃんは自殺しました。

いつものようにいじめられ、いじめっ子達に開放された後、唯ちゃんと二人で残されました。
この頃私は、家では一人部屋にこもりきりで、何も考えられずにいる時間がほとんどでした。
この時も、私は、ぼんやりしていました。彼女が話しかけてくるまでは。

「もうすぐ、夏休み終わるよ。」

彼女の言葉に、私は特に反応出来ませんでした。
しかし、彼女の悲しげな目を見たとき彼女がなにを言いたいのか、少しずつ理解していきました。
「私も、クラスの中で…。」
彼女は否定しませんでした。私も否定出来ませんでした。
そして、否定できない現実が、私の中に恐怖として広がっていきました。
「嫌…。」
「嫌、嫌よ。そんなの耐えられない。」
私は錯乱していました。どんどん広がる恐怖が私を押しつぶしていきます。
叫んでいました。恐怖を少しでも吐き出す為に。
「やだっ、やだっ!どうすればいいの。嫌、どうしよう。」
唯ちゃんを見ました。なにか、助けが欲しくて。でも…、
彼女は黙ったまま、私を見ていました。何も言ってはくれませんでした。
ただ、その目は、あきらめるしかないことを、どうにも成らないことを語っていました。
力無くうつむく私に、彼女も、うつむきながら一言だけ声を掛けてくれました。

「私も…、いるから…。」

彼女が私に出来る唯一の事だったと思います。
でも、その言葉は、私に宣告したのです。
1学期の始め、友人と会話に出てきた「動く人形」に、私も成るのだと。
私は、そんな宣告を受け入れたくなかった。全力で否定したかった。
だから、私は叫んでいた。

「私は…、私は、あなたじゃない。動く人形じゃない。
唯ちゃんは良いわよ。私は嫌。あんな人形みたいになれない。
そうよ、私普通だもん。唯ちゃん泣かないし。そっか、ホントは喜んでるんでしょ?でも、私は嫌。
絶対に、嫌!」
私の叫びを聞いていた唯ちゃんは、静かに立ち上がりまたした。
「私…。」
そう一言つぶやいた彼女を見たとき、下を向いていた彼女がふっと顔を上げ、私と目が合いました。
彼女は一人帰っていきました。

今でもあの時の彼女の目は忘れません。悲しみの中心で憤りが渦巻いている目でした。
そして、彼女は自殺をしました。

彼女の死をきっかけにいじめが公になり、彼女の残した日記により、
いじめっ子5人は退学処分になりました。
そして、私は誰にも悟られずに元の生活に戻ることが出来たのです。

でも、変わってしまったものもありました。
いじめられていた時を思い出して、オナニーするようになっていました。
私は悩み、考え、そして気が付きました。どうして変わったのかを。
私は生きようとしたのです。
つらい現実の中で生きられるように変えたのです、自分の体を。
そして、唯ちゃんは…。きっと、生きていけるように心も変えたのです。

いじめられて、喜ぶ人は居ないと思います。
みんな生きるために変わらされているだけだと思います。
しかし、いじめられた過去が変わらないように、変えられた自分も戻らない。
その自分と生きていくためには、それを受け入れられるように変わらなければいけない。
だから、私は変わったのだと。

今、私は唯ちゃんのお墓参りに来ています。
許されるわけはないけど、彼女に謝るために。
そして、伝えるために。
『あなたは、人形じゃないよ。』と。

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