anuritoさんの作品
影子の回想
(序章)
影子の母親は、卓越した女流科学者でした。
我が血をひく娘は、俗界に染まらせないで、英才教育を施した方がいい、と考えた彼女は、
生まれたばかりの影子を自分のラボ内に閉じ込め、外界から遮断した状態で、自分一人の力で育ててきました。
影子が13歳の時、母は唐突に事故死し、残された影子は今後の身の振るまいが分からなくなって、
周囲の思惑に流されるまま、親戚の家にと引き取られました。
影子は、従順であり、とにかく素直な少女でした。
英才教育で得た高い知性、能力に相反して、
他人との十分なコミニュケーションが不足していた為、性格面では幼児性がかなり残っていました。
人見知りするのか、普段はとてもおとなしく、物静かなのですが、
時々、無邪気にはしゃいだり、無垢に笑ったりします。
美しい子でしたので、
おとなしい時は深窓のお嬢さまみたいで、はしゃいでいる時は妖精か天使さながらに見えました。
あどけなさは、むしろ、影子の持つ純情さ、繊細さを素朴に引き立てていました。
しかし、他方で、マイペースで、一般常識の欠けた影子は、トラブルを引き起こす事も多く、
それが学校でのいじめのきっかけにもなったのです。
誰にでも優しかった影子は、悪意のある人々の格好の獲物となってしまいました。
こうして、善良な影子は、逆らう事もせず、
なぜ自分がいじめられるのかも分からないまま、ずぶずぶと地獄の日々に引きずり込まれていったのでした。