b101さんの作品

その後のエル(成人式)



 成人式の日です。
 振袖を着ました。私が小さい頃に、他界した母が、私に残してくれたものだそうです。
 普段、着飾ることもなく、地味で、ろくに化粧もしない私ですが、今日はお化粧もしてみました。
 着付けや、お化粧は、おばあちゃんが手伝ってくれました。
 着飾った私は、自分を鏡で見て、その華やかさに驚きました。
 可憐で、綺麗で、美しくて…、なんだか花の妖精にでもなったような気がしました。
 私はただただ自分の姿が嬉しくて嬉しくて、父は私の写真を何枚も何枚も撮り、
 おばあちゃんは何度も田舎の言葉を私をほめてくれました。

 でも…
 私は、成人式に出かける気は、ありません。
 私は、同年代のクラスメートに、それはひどいいじめをうけていた事があるのです。
 虫けらのように全てを奪われて、玩具として、人のお情けで生きていた恥辱の日々。
 どうして、昔のクラスメートに顔を合わせるようなことができるでしょうか?

 それでも、私は、父とおばあちゃんにせかされて、外へ出てみました。
 天気は晴天、しんとしてて、冷たい空気がすがすがしく、どこまでも晴やかでした。
 私たち三人は公園へと歩いて行きました。
 父は、お母さんよりも綺麗だといい、何かというと写真を撮り、私を照れさせました。

 公園の入り口に差し掛かったとき、私は、はっとしました。
 向こうから歩いてくる振袖の女の姿が目に留まったのです。
 その女は、とても綺麗で、立派な振袖を着て、首には白いふわふわのショール、
 携帯電話で何かを楽しそうに話しながら歩いていました。
 その人の立派な姿を見てしまうと、母が残してくれたこの振袖が、
 なんとも頼りなく地味で、貧相なもののように思えてきました。
 私は、その人の前で、顔を上げることができませんでした。

 私は、私ごときが、調子に乗っていたと気がついたのです。

 父や、おばあちゃんにほめられて、私もつい忘れていましたが、
 同年代の女たちの間では(いいえ全ての女性の中で)、私は最低の女です。

 だって…

 クラスメート全員の前で、全裸でふみつけにされながら、オナニーをしたことがあるのですもの。
 つばを吐きかけられて、舌で男子用の小便器を舐めたことがあるのすもの。
 三階の窓からうんこをさせられたことがあるのですもの。
 自分でおまんこを広げて、耳を覆いたくなるようないやらしい言葉を連呼させられ、ビデオに撮られたのですもの。
 たくさんの男子生徒の性処理をし、強制的に売春させられ、補導されたことがあるのですもの。
 人様の足をなめたり、土下座することに、もうさほど抵抗がないのですもの。
 もう、小学生に顔や尻タブをひっぱたかれても、何もいえないのですもの。

 私ごときが、なんとなく着飾って晴やかな気分になっていたことが、急に恥ずかしくなりました。
 歩いてきた振袖の女は、私の届かない世界の人で、私がうっかりその世界の住人みたいな気分でいたから…。
 すれ違った女の顔を私は見られませんでしたが、その女が、蔑みの視線を感じたような気がしました。
 嘲笑され、おまえ、なに着ちゃってんの?と、笑われたような気がしました。

 父やおばあちゃんに気取られまいと、私は努めてなんでもない顔をしていました。
 公園で数枚写真を撮りました。
 私は、帰って振袖を脱いで、いつもの地味な私に戻りたくてしかたありませんでした。
 この姿を誰かに見られはしまいかとひやひやして、針の筵に座っているようでした。

 父は、遠慮がちに、遠まわしに、成人式の会場へ言ってみないか?と、言いました。
 私は、父を残念がらせるのを申し訳なく思いながら、首を横に振りました。

 帰って、振袖を脱ぎました。
 父とおばあちゃんが見ているテレビには、成人式の映像と、私とは違う世界のみんなが写っていました。
 もう、あちら側には絶対にいけないのだなあ、と思いました。


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