beeさんの作品

観察者-現在も継続中の実話-


家にいるより何処かに居たかった。
不条理な暴力には慣れ過ぎていた。
それなら肉親以外の方が随分楽だ。
血縁者が振るう暴力は
自分自身の存在に対して憎悪が湧く。

不条理が育て上げた精神は
捩じれた理屈を武器に持った。
子供じみた苛めに対して観察者として対処する。
苛めっ子は逆にこちらを恐れる様になって行く。
言葉の棘も肉体的暴力もガキの戯れ以外に意味を成さない。
苛めっ子は無抵抗と冷静さに怯えはじめる。
それでも止める事はしないのは何故だろう。
苛めっ子達があたしに服従している事は見て取れる。
馬鹿馬鹿しい。

家へ帰れば不条理が待っている。
慣れ過ぎた空気。
何故、妹も弟も母さえも
この不条理に慣れられないのだろう。
当たり前と受け入れてしまえば楽なのに。
おどおどしている人間を見るのは良い気分ではない。
不条理を受け入れなさいと忠告しても
逆に八つ当たりされる事になる。
だから
家にいるより何処かに居たかった。

何処かというのは何処でも良い何処か。
学校では優等生かつ従順な雑用人形。
怯えながらも苛めを仕掛ける苛めっ子達。
観察者として応じる。
苛めっ子という立場の人達は
案外ただのMの隠れ蓑として他人を虐めるのかも知れない。
教師達のあたしに対する贔屓の方が辛かった思い出。
無条件な優しさは責め苦でしかない。
馬鹿馬鹿しい。

学校以外の何処かは本当に何処でも良い何処か。
誰でも良い誰かが
好きな様にこの身体で遊ぶ。
時には1人時には複数。関係ない。
そして言われる言葉は大抵決まっている。
「淫乱」
「冷たい」
「恐い」
「気狂い」
安堵する。そして馬鹿馬鹿しい。

何年かが過ぎた。
今は学校も卒業して久しい。
そして家に居る。
自宅療養。決して治らぬ諦念としての肉体と精神。
そして家に居る。
不条理の質が変わった家に居る。

不条理な優しさ。
腫れ物を扱う様な父の態度が今は恐ろしい。
暴力より更に恐ろしい。
妹は結婚して行った。賢明な子だ。
弟はシャブ中になり留置された事で自らを立て直した。家から去っていった。
母は未だ不条理を受け入れられずに苦しんでいる。

あたしは未だ観察者として気狂いのフリを続けている。
時折現実観を取り戻す為に
何処でも良い何処か、誰でも良い誰か

機械人形の様に責め立てられながら。
そして「氷の様な気狂い」という褒め言葉を戴きながら。

馬鹿馬鹿しい
というのは自身に対する言葉。
誰も憎んだりしない。
誰も蔑んだりしない。
だって贖罪の為に生まれ、贖罪の為に生きている。
それがこの物質としてのあたしの役割。

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