再会

再会・シーン2『過去』



 この国のとある地方都市での出来事。
 脛に傷を持つ者は、絶えず何かを気にしながら生きている。
それを受け入れてくれる友人は大切である。
 男はいつもの様に込み合った電車に揺られ学校へと向かっていた。
そして再び、ある視線を感じた。が、込み合った電車の中では身動きがとれない。
男は思った。最近、視線の距離が縮まったような気がすると。
 電車は定刻通り大学前の駅に着いた。
そこで電車はいつもの様に男と他の乗客を吐き出し、再び走り出す。
男はふっと振り返ったが、そこに知っている顔は無かった。
男は他の学生達と共に流れに乗って校舎の中へと消えていった。
 退屈な授業の後、男は久しぶりに幼馴染と会う事にした。
男は土産を手に、自宅近所の坂道を上っていた。
そこで再び視線を感じ振り返ったが、そこには誰も映らなかった。
男はバツが悪そうに頭を掻きながら目的地を目指した。
 坂道を上りきった小高い丘の上に、幼馴染の住む社宅が一棟だけあった。
辺りは午後の静けさに包まれていた。
男は目的地の四階を目指し、冷たいコンクリートの階段を昇った。
 男の眼前に鉄の扉が現れる。表札には、千田と書かれていた。
男は扉横のチャイムを鳴らすと程なくして、重い鉄の扉が開かれ中から
二十歳前後の若い女性が出てきた。
「いらっしゃいユウ君。久しぶりね。さあどうぞ」
若い女性は、ユウと呼ばれた幼馴染を自宅へと招き入れた。
「お邪魔します。これ、恭子ちゃんの好きそうな物を見繕ってきた。良かったら食べて」
ユウはそう言うと、手にした土産を差し出した。
「ありがとね、ユウ君。今お茶を用意するからソファーに掛けてて」
ユウがソファーに腰掛けて程無くすると、恭子は奥の台所から白磁のティーセットを持って現れた。
 恭子はカップに紅茶を注ぎながら切り出した。
「今日はどうしたの?」
ユウは注がれた紅茶の香りを楽しみながら口を開いた。
「実は最近、ある視線が気になっている。誰かに見られている様な気がしてならないんだ」
「誰かって?」
恭子は、先ほど貰ったケーキを食べながら問いかけた。
「まだ誰かは判らない。最初は小谷の母親かと思ったが、あの人は今、海外だろ?
だから皆目見当が付かないんだよ。
それに、その視線が段々近づいている様な気がしてならない」
ユウは今まで溜め込んでいた考えを、幼馴染の恭子に吐露した。
「そりゃぁ息子を殺された小谷のお母さんに怨まれても仕方ないけど、
ユウ君は相棒の小野君と共に罪を償ったのよ。
それに彼女は今、海外にいるとトモ君から聞いたわ。気にしすぎよ。
他に怨まれるとするなら虫達よね」
恭子は、上目遣いで笑いながらユウを見た。
ユウは懐かしい名を聞いた。
忘れかけていた虫と呼ばれた同級生達の事を思い出していた。
「懐かしいな。だったらお前やトモも同罪じゃん。」
カップで恭子を指しながらユウも笑った。
「同罪なんて人聞きの悪い事を言うねぇ、ユウ君は。
あんな奴隷に成り下がった虫達に復讐なんて考えは無いわよ」
恭子は目元で笑いながら、業とらしく頬っぺを膨らませて拳を振り上げて見せた。
『ふふっ、ゴメンゴメン。あーもう降参降参。で、あいつ等虫達は今、何してるの?』
ユウはふざけて恭子を拝みながら問いかけた。
「確かねぇ、1号のチハルは引き籠りで、2号のエリは消息不明。3号のマリは死んじゃったし、
補充で入った4号のカスミは進学した高校でも虐められてたよ」
「ふーん、そうなんだ。ま、奴隷の分際で御主人様に歯向かったとしても、返り討ちにしてやるさ」
恭子から近況を聞いたユウは、その場で自身の首を掻っ切る仕草で息巻いて見せていた。
 ユウと恭子を含めた数人のグループは中学生の頃、同級生を虐めていた過去があった。
初めはストレス発散の為にやっていたが、次第にエスカレートし始め、
何時しか虫達は性奴隷として扱うようになっていた。
そんな中、卒業を控えたある日に、虫3号と呼ばれていた少女マリが自殺をすると言う事件が起こった。
 ユウ達は虐めの主犯格ではあったが、クラスの生徒全てを巻き込んでおり、
人と虫の二階級の構造を巧みに作り上げ双方を脅迫し合う形で、
マリの自殺は真実を白日の下に晒される事の無いままに、
受験によるストレスからくる自殺と言う結果で幕を閉じていた。
 その後、上辺だけの悲しみを背負った少年少女達は、進学する事になる。
そこでユウは、過去の経験から得たノウハウを元にバイト先で知り合った小野誠を引き込み、
同じバイト仲間の小谷から金銭を巻き上げようとするも失敗し、結果彼を死に至らしめてしまう。
 この事件でユウ(木村友治)と小野誠の両名は、未成年と言う理由並びに精神鑑定の結果から、
主犯の木村友治には医療少年院に二年。小野誠には幇助の罪で鑑別所に一年半と言う判決が下された。
 共犯者の小野は真面目に刑に服し、予定よりも二ヶ月早く刑期を終え、
暫くした後に木村の出所と前後してこの国を後にした。
木村は二年の施設暮らしを経て、18歳の夏に再び野に放たれた。
その後一年で大検を取得した彼は、皆より二年送れてではあるが、二十歳で大学進学を果たす。
それから退屈な日々を送る事になった。
当面の目標を果たした事で木村は余裕からか、何時しかある視線を感じる様になっていた。
結局のところ木村が日々感じている視線の謎は解明される事もなく、彼は幼馴染宅を後にした。
帰りしなに木村は恭子からDVDのディスクを受け取り、再び退屈な日常へと戻っていった。


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