どらごんさんの作品

性奴系図外伝(佐藤敬吾篇)

第8章  邂逅


慶次は山野グループの幹部会に来賓として招かれている。
山野財閥傘下の各企業の取締役以上が集まる不定期に開かれる親睦会であった。
ゲストとして有名人を時折招いていた。
いつもと同じように会場は山野グループ傘下の高級ホテルのホールを貸し切っている。
慶次は講演を求められ、地方自治と公共事業という題目で、1時間ほどスピーチを行った。
講演の冒頭で、慶蔵と慶次の容貌が瓜二つであることが会場の笑いを誘った。
慶次の講演が終わると、立食パーティーとなった。
慶次はピザを頬張りながら、山野建設社長の藤田浩二とと歓談していた。
「あ、川上君」
浩二がウィスキーを片手に所在無げにうろうろしている山野建設取締役の川上悟に気づいて声をかけた。
浩二が悟を慶次に紹介する。
「君が川上君か」
慶次は慶蔵から聞いていた。
慶蔵は悟のことをよほど気に入ったのか、
「うちの傘下で山野建設というのがあるんだが、そこの役員にこういう男がいてね……」と
悟についてもいろいろと語っていた。
なんでも悟は最近まで女性経験が全くなかったが、哀れに思った慶蔵と浩二は性奴圭子で
筆下ろしをさせてあげたのだという。
圭子で初体験した悟は、圭子に熱を上げてしまったが、慶蔵の秘書を悟に紹介して結婚させてあげることで、
「川上君に明るい将来を用意してやったのだ」と慶蔵は目を細めてうれしそうに話していた。
「この川上ってやつは、性奴隷の圭子と接点があるのか……」
慶次は悟からもっと詳しく話を聞きたいと思った。
山野建設は、慶次が市長をしている市に外資系大型ショッピングモールの建設を請け負っている。
市では近くに広大な市営住宅の整備を進めており、浩二と慶次はモール建設の進行状況などに
ついて熱く語り合っていた。
浩二のことも慶蔵は慶次に語っていた。
かつて浩二は圭子の夫が社長をしていた藤川建設の副社長をしていたが、
藤川建設が山野グループの傘下に収められた後に、社長に就任したとのことであった。
慶蔵の話しによれば、副社長時代から圭子の美貌に密かに憧れを抱いていたそうであるが、
圭子が性奴に落魄れてから、
時折慶蔵邸に用事を作って来ては、圭子を抱いていくそうである。
慶蔵は笑いながら、「藤田君もあれでなかなか圭子を辱めるのが大好きでね」と
浩二がいかに今まで圭子に恥虐を与えたのかをうれしそうに語るのであった。
このように、山野建設の闇の部分について慶次は知るに至っている。
ただ、表面上は、慶次は浩二と話しを合わせて談笑していた。
葉山刑事を中心とした捜査員たちが、藤川社長の自殺未遂事件を洗っていた。
藤川は巨額の不渡り手形を掴んでしまい、それが元になって会社を倒産させてしまった。
それを苦に会社のビルの屋上から自ら飛び降りたと当時の捜査は結論付けていた。
同時刻には、藤田浩二のみが会社に残っていた。
「葉山さん、藤田は藤川社長とはうまく行っていなかったみたいですね」
かつての従業員を中心に聞き込みをした二十代前半の刑事が手帳を見ながら、報告した。
「私の方でも、藤田が藤川から会社の経営方針を廻って、居酒屋でどなりつけられていたということを
居酒屋の店員から聞き込みました」
最初の刑事よりやや年長の別な刑事が追加した。
飛び降り事件発生当時の捜査でも、第一発見者の浩二はやはり疑われたらしい。
当時、浩二は警察で事情聴収を受けたが、浩二が藤川をビルから突き落としたという証拠は
いっさい出てこなかった。
「藤田には、藤川を殺す動機は十分あるように思えるんだが……」
葉山は捜査員を見回した。
やや思い空気が現場を支配した。
「ところで、自殺の原因になったという不渡り手形だが、振り出したのはどこの誰?」
葉山が尋ねると、二十代後半で銀行から数年前に転職してきた刑事が応えた。
「ベンチャー企業でサンヤーというITをやっているところなんですが……」
「聞いたことないが、結構有名なの?」
「そのサンヤーはほぼ幽霊会社に近いのですが、その筆頭株主は山野慶蔵です」
「山野が?」
葉山の声が熱気を帯びた。
「ええ。間違いありません」
「サンヤーの売り上げは?」
「調査したところでは、ほとんど活動実態はありません」
捜査員達がどよめいた。
「幽霊会社が何億もの手形を振り出すなんて妙だな」
「そうですね。それにしても、藤川建設はよくそんな得体の知れない手形を引き受けたもんだね」
「まあ、ワンマン経営の弊害だろうな」
葉山は多くのベンチャー経営者が強烈な個性の持ち主であることを思い浮かべた。
「ただ、藤川建設をすでに退職した社員に聞き込みをしたのですが、
手形関係はほとんど副社長の藤田が見ていたらしいですよ」
「そ、そうなのか」
葉山の声が大きくなった。
すぐに出井に報告に行くべきだと思った。
葉山が出井に報告に向かいながら、廊下で捜査員から渡された「株式会社サンヤー」の登記簿謄本に
目を落とした。
「代表取締役 井田英二」という文字が目に飛び込んできた。
出井が竹川に電話で連絡した。
藤川社長の自殺未遂事件と慶蔵との接点が見え始めてきたということを報告した。
山野建設を大発展させた凄腕の経営者として経済雑誌に取り上げられることの多い藤田浩二も
逮捕できるかもしれないということも付け加えた。
殺人未遂の容疑でである。
ただ、証拠が今の段階では不足していた。
現状では、浩二が藤川社長を突き落としたという証拠は捜査員の地道な聞き込み捜査にも関わらず、
なかなか上がってこなかった。
別件逮捕しかないのかもしれない。
ただタイミングが問題であった。
今すぐ浩二の身柄を押さえるのは得策ではない。
今の段階では、慶蔵までたどり着けない。
慶次は次の国政選挙に政府与党の公認で立候補するつもりであった。
ところが兄が逮捕されてしまえば、逮捕されないまでも週刊誌などでスキャンダルが暴かれれば、
それが危なくなるばかりか市長の椅子も危うい。
慶次は先日のパーティで知り合ったばかりの悟を都心の高級ホテル内にある喫茶店に呼び出していた。
「川上君。悪いね、忙しいのに」
悟は山野グループ会長の弟に丁寧に頭を下げた。
これから出張なのか、小振りの旅行カバンを携えていた。
慶次は悟に捜査への協力を依頼するつもりであることを単刀直入に告げた。
慶次が奥に座っていた出井警視に片手を上げると、出井が悟の前に座った。
差し出された出井の名刺を見て、悟のカップを持つ手が少し震えた。
明らかに悟は何かを知っていると慶次は確信した。
「捜査と言いますと、どのようなことでしょうか……」
悟はおずおずと目の前の慶次と出井に尋ねた。
「川上さん。ズバリと聞きます。藤川圭子さんをご存知ですね」
出井の視線に悟は動揺した。汗が一挙に吹き出てきた。
「え……ええ」
「圭子さんと貴方との関わりについて聞きたいのです」
出井の柔らかいながらも鋭い視線に、悟は思わず頷いた。
「わ、私は、以前は藤川社長の運転手をしておりまして、そのときから圭子夫人はよくお見かけしましたが」
自分の声が微かに震えているのを悟は自覚した。
「川上さん。圭子さんが今、山野邸にいるのはご存知ですね」
「…………」
「川上君。僕も兄の家に行ったときに、圭子さんを見ているんだよ。全裸になっているところをね。
圭子さんは山野家の性奴隷なんだろう」
慶次が口を挟んだ。
「兄の行為は社会的に許されるべきじゃない。いつかは糾弾されるだろう。
僕は社会正義の立場から放っておくことはできないのだよ。君ももっともだと思うだろ」
「え……ええ」
言葉の出ない悟を慶次が包容力のある目で見た。
出井がタバコを悟に勧めたが、悟は首を横に振った。
「川上さん。それから、藤田浩二もかなり圭子さんを虐待しているようですね。詳しくお話しいただけませんか」
「…………」
「協力してくれますか、川上さん」
悟は押し黙った。
高卒でありながらも、自分の潜在能力を認めてくれて、役員にまで押し上げてくれたのは、慶蔵と浩二である。
確かに性奴として飼われている圭子の心中を察すると、耐え難いものが全くないわけではない。
しかし、恩人とも言うべき二人を裏切るわけにはいかなかった。
短いようで長い時間が流れた。
悟は貝になっていることにした。
「分かりました。川上さん、お話になる気になりましたら、こちらまでご連絡下さい」
出井は名刺をテーブルに置くとコートを掴んで立ち上がった。


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