どらごんさんの作品

ジャスティーナ  第一章オークションB



ほんの半年前の出来事であった。
藤堂の会社が多額の融資をしている不動産会社が吉祥寺のはずれにある土地を
買い占めようとしたことがあった。いわゆる地上げである。
不動産会社といっても社長の黒川は藤堂と同じ広域暴力団の準構成員であった。
藤堂と黒川が莫大な利益を見込んでいるところに入り込んできたのが、
ジャスティーナが幹部として活躍していた外資系投資会社であった。
ここ数年、規制緩和の影響で外資の進出はめざましい。
かつては外資が入り込むのが難しかった不動産分野でも外資がビジネスを広げていたのだ。

(そうか、あのときの男だ……)
 ジャスティーナがつぶやきを漏らした。

 不動会社社長の黒川が一度はまとめた不動産売買取引であったが、頭のいいジャスティーナから見れば、
穴だらけで引っくり返せるものであった。
そこで、ジャスティーナは、その売買自体が法律違反で無効と主張したのである。
黒川の会社に融資した金銭が水泡に帰すことを恐れた藤堂が、黒川と一緒になって、
ジャスティーナの会社に乗り込んで話しをつけに来たのだが、
そのときにジャスティーナは責任者として応対したのである。
 ジャスティーナは、巧みな日本語で法律の条文を引用し、あまり討論になれていない
黒川や藤堂をやりこめたのであった。
そのときにはすでにジャスティーナは、問題となった土地を別ルートで買い占めていた。
藤堂たちをからかうかのように、ジャスティーナは、契約書の束を取り出して示した。
買い占めたと思っていた土地をまんまと横取りされたことに黒川と藤堂は憤ったが、
ジャスティーナは涼しい顔で、「ゴ不満デシタラ、裁判所マデドウゾ」と奇妙なアクセントの残る
日本語で言い放ったのである。
そのときの悔しそうな藤堂の顔がジャスティーナの胸に蘇ってきていた。
確か、藤堂や黒川はそれによりかなりの金額の損失を出していたはずだ。

(確か、この男は……。藤堂剛は、首都圏で金融業を営んでいたが、
それは表向きの顔であって、実は、広域暴力団の傘下で準構成員としても活動していたはず……。
暴力団が必要とする資金調達や拳銃、麻薬等の非合法ビジネスからの収益のマネーローンダリング等に
多大の貢献をしているという話だったけど……。
藤堂の営む金融業は、東京都の認可を受けた正規の業者であるが、
藤堂の店から金を借りて闇金に流れていった女が今までに何人も姿を消しているという噂もあったわね……)
 ジャスティーナはかつて探偵会社に依頼して調べ上げた藤堂に関する調査報告書の内容を思い出していた。
(それにしても、よりによって私も闇金にはまるなんて……) 
 ジャスティーナは皮肉な笑いを浮かべた。
(藤堂は必ず私に復讐する……)
かつて大きな損害を与えてやった地上げ屋の仲間に捕らわれの身となることを思い、
ジャスティーナは、大きな恐怖を感じた。
思わず両手で胸を覆い、膝を閉じて身を硬くした。
「どうやら、思い出したみたいだな」
 藤堂は爆笑して、ジャスティーナの首輪から垂れ下がる鎖を受け取った。
「お前の肉体は全て俺のものだ。今から覚悟しとけよ。がっははは」
その笑いにジャスティーナは身体の芯が凍りつくような恐怖を感じた。


「それじゃ、柴田。そろそろ行こうか」
 藤堂がうれしそうに付き添いの初老の男に言った。
 そのまま藤堂はジャスティーナを引いて部屋の外に連れて行く。
ジャスティーナが柴田の運転する高級外車に押し込まれようとしたとき、
ジャスティーナは精一杯の抵抗を示した。鎖を握った藤堂を引っ張るほどの勢いである。
「おい、もっとおとなしくしろよ」
藤堂は面倒くさそうに眉をひそめて、ジャスティーナの頬を平手打ちにした。再び猿轡がはめられた。

後部座席に押し込められたジャスティーナは、肩を震わせながら、
その日の出来事を脳裏で反芻していた。頬を涙が伝っている。
 オークションでのジャスティーナの記憶はほとんど飛んでいた。
だが、自分を買った藤堂のことは覚えている。
これから藤堂の下で暮らさなければならないかと思うと、恐ろしさに震えた。
(私はこれからどうなるのかしら……)
街で楽しそうに歩く男女を見て、ジャスティーナは運命を呪いたい気になった。
窓から逃げ出したい。
たった車の中か外の違いなのに、ジャスティーナの運命はこの色黒で下賎な男の手に委ねられているのだ。


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