どらごんさんの作品

第四章新たな目覚めA

月曜日。
いつもはフレックスで十時近くに出社するジャスティーナは珍しく八時過ぎに出社した。
ジャスティーナは幹部として小さいながらも個室を割り当てられている。
自室に入り、ノートパソコンを立ち上げた。
メールを素早くチェックする。
数日前に、本社のボスから届いたメールをもう一度開けてみた。
ジャスティーナに香港支店への異動を勧める内容である。
東京の生活を気に入っていたジャスティーナは気が進まず、
何と返事をしていいのか数日間放って置いたのである。
メールの語調からして香港への転勤は断ろうと思えば断れるように思えた。
だが、ジャスティーナの指はキーボードを上で軽やかに動いて、
「喜んで香港への転勤を引き受けます」という内容の文を生み出していた。
 本社のボスは物静かで大人しい感じの五十代前半の紳士だが、
ボスが大人しいことをいいことに好き勝手な行動をした部下が閑職に飛ばされたことがあったのを
ジャスティーナは思い出した。
やはり企業で生き残るにはボスの意向に逆らってはいけないのだということを
ジャスティーナは改めて肝に銘じ、「送信」のボタンを押した。

九時半を回ると、日本人の部下達が次々と出社してきた。
「すみません、失礼します」
 直属のマネージャである清水高敏が資料をいくつか持ってジャスティーナの個室のドアをノックして入ってきた。
「清水サン、オハヨウ」
 ジャスティーナは明るく声をかけた。清水に向かい側の椅子を勧めた。
「おはようございます。吉祥寺の件についてご報告したいのですが……」
 清水がやや伏目がちになりながらも書類を広げた。
「キチジョウジ……?ああ、キチジョウジね」
ジャスティーナは思い出した。吉祥寺の再開発の件である。
ジャスティーナは清水に土地の調査を依頼していたのである。
清水が資料をめくりながら説明を始めた。
ジャスティーナは椅子に腰掛け、腕組みをしながら聞いている。
「この物件は黒川不動産、といっても地上げ屋、つまりヤクザのような連中ですが、
その黒川が押さえている土地でして……」
 清水が上目遣いでジャスティーナを見た。
「ワカリマシタ。コノ物件ハアブナイノデ、ヤメマショウ……」
ジャスティーナは即座に吉祥寺の物件を中止するべきであると感じていた。
土曜の夜に見た悪夢のせいなのかもしれなかった。
清水がびっくりしたような顔でジャスティーナを見上げた。
「本当にいいのでしょうか……?あれほど熱心にやられていたのに……」
 清水はジャスティーナが日本語の単語の選択を間違えているのではないかといぶかった。
「モウ吉祥寺ノハナシハヤメマショウ……」
 ジャスティーナはもう一度、はっきりとした口調で言った。

ボスからのメールにはジャスティーナの後任として本社勤務の日本人女性が着くと書かれていた。
再来週にでも日本に着任するので、三ヶ月間引き継ぎをしておいて欲しいとのことである。
(それにしても随分と手回しのいいことね……)
 ジャスティーナは日本での生活が残り三ヶ月ほどに迫ったことに寂しさを感じていたが、
ある種の安堵を覚えていた。


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