どらごんさんの作品

第四章新たな目覚めB


後任になるという日本人女性が着任の挨拶に来た。
戸倉遥と言った。日本語訛りのきつい英語をぼそぼそと話していた。
ジャスティーナの気を引くためか、自分のことをヨーヨーと呼んでくれと、遥は言った。
 遥の自信なさげな振る舞いとはバランスの取れないそのなれなれしさに、
ジャスティーナはどういうわけか小さな嫌悪感を覚えた。
「はっきり言いなさいよ。自己挨拶もきちんとできないのかしら」
 ジャスティーナは母国語でぴしゃりと言った。その口調は刺を帯びていた。
その口調に、遥は肩をしぼませるのであった。
 遙はジャスティーナの地位を引き継ぐまでは、部下の一人として働くこととなっている。
(なんでこんなのが、私の後任なわけ?)
 ジャスティーナは内心の怒りを抑えることができなかった。
本社のボスは何を考えているのであろうか。

 遥は見れば見るほどムカついてくるタイプの部下であった。
 決していいかげんに仕事をするというタイプではなく、むしろ真面目な子であるが、表情は暗く、
もう三十代前半になるというのに化粧気もほとんどなかった。
黒い髪の毛を引っ詰めにして後ろで結わいている。
 何より英語力がないというのが決定的にジャスティーナを苛立たせた。
「ヨー、あんた、ほんとに本社で働いていたの?」
 ジャスティーナは初日から容赦のない非難の言葉を遥に浴びせた。
(こんな女なんて、「ヨー」と呼べば十分よ。「ヨーヨー」なんてふざけているわ)
 ジャスティーナは仕事ではてきぱきと事務処理を進めていくタイプである。
それに比べ、遙の事務処理能力は大幅に劣っていた。
語学力のせいではない。もともと遙は仕事が遅いのである。
 せっかくの仕事の処理が遥の鈍さのために滞るのはジャスティーナには我慢できなかった。
 それに、これほど能力がないのに、遙が職位でいうと、ジャスティーナのすぐ下のレベルというのも、
この美しい上司の神経を逆なでにしている。
(この女は、思い知らせてやらなければいけないわね)
 ジャスティーナは、自分の目の前で腰を屈めて書類の束を整理する遥の背中を見据えながら思った。
「おい、のろま」
 ジャスティーナは口汚く遙をののしった。
 遙はびくんとしたかのように背中を丸めると、こわごわと上司の方に振り返った。
「お前のことだよ、ヨー。返事しないの?」
 ジャスティーナは怒り狂ったかのように、ホッチキスを投げつけた。
顔に当ったが、遙は目に涙を溜めて、無言の抗議の視線を見せた。
「おい、ヨー。なんか言うことないの?」
 遙が反抗してこないことが、余計にジャスティーナをいらだたせていた。
 ジャスティーナは母国語であらんかぎりの激しい言葉で遙をなじると、
同国人の男性マネージャーに止められるまで、その攻撃は続いた。

(遙をどうやっていじめてやろうか?)
 ジャスティーナは仕事のことは置いて、いかに遙に打撃を与えられるのかということを考えるようになっている。
(やっぱり私が夢でやられたことをやってあげないとね)
 あの性夢の記憶は数日を経過しても薄れることはなかった。
むしろ、時間の経過とともにより鮮明になっている。
 まるで舌なめずりをするかのように、ジャスティーナは、遙の責め方を夢想した。
 ジャスティーナは個室にある電話をとった。遙の内線番号を押す。
「はい……」
 くぐもった声が聞こえる。
「ねえ、ヨー。今日、お食事でもしないかしら。
あなたとはもっと理解し合ったほうがいいと思うのよ。私のマンションでどうかしら。ごちそうするわよ」
 上司を誘いを遙は断れるはずもない。
 電話を終わったジャスティーナは、まるで巣に飛び込んできた生贄に近づいていく蜘蛛のように、
「これからどうしてやろうか」とつぶやいた。
その目は凍り付いていたが、笑っていた。





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