ドロップアウターさんの作品

再検査1


 待合室では、診察を待つ小さな子供たちが無邪気にはしゃいでいる。
そのそばで、母親たちが我が子の様子を見守っている。
 そこから少し離れた列の長椅子に、少女は一人静かに腰かけていた。
 学校帰りの少女は、夏の白いセーラー服姿である。小柄で目立たない感じだが、セミロングの黒髪が
よく似合うかわいらしい少女である。
 少女は膝元に両手をのせて、うつむき加減で座っている。
顔は少し青白い。
どうやら体調が優れないらしい。
少女は時折、上半身を抱くようにして腕を組んでいた。
その度に、華奢な肩が小刻みにブルブルと震えた。
 そっと、辺りを見渡してみる。
 何だか嫌な感じがした。
 少女がいる小児科医院の建物は古く、外壁はペンキが至るところではがれ落ちている。
 建物の中も、蛍光灯の明かりが弱いせいか、全体的に暗い。
時期が梅雨の真っ只中で空が曇っているのも、室内の暗さを増幅させているようだ。
花もそれなりに生けてあるのだが、どうしても殺風景に感じてしまう。
 少女は息を深く吸い込んだ。病院特有の薬のにおいが、嫌でも鼻についた。
 病院に来る前から抱いている不安感が、より一層強まったような気がした。
 少女は、ため息をついた。
 実は、少女がこの病院に来たのには特別な理由があった。
それは、少女が通っている中学校の養護教諭に、健康診断の再検査を受けて
くるよう指示されたからである。


 それは、少女がこの小児科医院を訪れる二日前の出来事だった。
 放課後、少女は部活動に向かおうとしているところを養護教諭に呼び止められた。
 養護教諭は少女を保健室へ連れて行き、そこで一枚の紙を手渡した。
 少女はその紙を見て唖然とした。
その紙は一ヶ月前、五月初めに実施された健康診断の検査結果を記したものだった。
そしてそこには、再検査が必要との旨が記されていたのである。
 しかも、再検査が必要とされた検査は三項目にも及んでいた。
貧血検査、尿検査、心電図検査の三つである。
 貧血検査についてはさほど驚きはなかった。
少女は元々貧血気味で、小学生の時にも何度か再検査を指示されたことがあるからである。
しかし、尿検査、心電図検査で引っかかったことは、今までには一度もなかったのだ。

「ウソでしょ??????」
 少女は思わずそう呟いて、養護教諭の前で呆然と立ち尽くした。
 養護教諭は、入学直後で心身共に疲労がたまっているせいだろうから心配する必要はない、
きちんと検査を受けてはっきりさせた方がいい、と少女を励ました。
 少女は養護教諭の言葉にうなずいたものの、やはり動揺は大きく、心の中の不安を完全に取り除くことは
どうしてもできなかった。

 少女が病院に来て受付をすませてから、間もなく三十分が過ぎようとしていた。
 正面の壁にかけられているアナログ式の時計が、カチコチと音を立てて秒針を刻んでいる。
それが、少女には非常にゆっくりと感じられた。
 少女は背中を丸め、こぶしをぎゅっと握りしめた。
 どうしても、不安な気持ちを拭い去ることができなかった。
 確かに最近、体調が優れない。妙に体がだるく、何となく熱っぽい日が続いている。この日もそうだった。
朝起きると体が変に重く、体温を測ると37・9を示していた。
 それだけではない。おかしな頭痛や腹痛もよくあり、生理の周期までも狂いがちになってしまっていた。
 疲労のせい、と納得すればそれで良いのかもしれない。
だが、長く体調不良が続いているため、少女の心はだいぶナーバスになっていた。
 本当に病気になってしまっていないか、心配だった。
 検査を受けて結果を知るのが怖かった。かといって、検査結果を知るのを先延ばしにするのも
不安を増幅させるだけである。
 今はただ、不安と緊張の中に身を委ねるより他になかった。

 しばらくたって、診察室のドアが開いた。
 診察を終えた五、六歳くらいの男の子と母親が出てきた。
 そして二人に続き、三十歳くらいの女性の看護士が姿を見せた。
「平嶋さん」
 少女はこの時、自分の名前を呼ばれたことに気づかなかった。
「平嶋紗智子さん」
 ようやく気づいて、それまで丸めていた背筋を伸ばして返事した。
「はい」
「お入り下さい」
 看護士は少女に微笑みかけた。
「はい」
 少女は自分のカバンを手に立ち上がった。
 とうとう診察が始まると思うと、緊張感がいよいよ増してきた。
後のことを考えると、やはり怖かった。それでも、逃げ出すわけにはいかない。
 少女はうつむき加減で、それでも「がんばれ、がんばれ」とつぶやいて自分を励ましながら、
診察室の中へと進んでいった。 

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