再検査

再検査2


  診察室のドアを開けると、女医ともう一人の女性の看護士が少女を待っていた。
 女医は四十歳前後、看護士は二十代半ばくらいと若かった。
女医は左の壁際の机に向かって座り、若い看護士は奥の方に立っている。
「失礼します」
 少女はぺこりと頭を下げた。
 少女が診察室に入ると、後からさっき名前を呼んだ三十歳くらいの看護士もついてきた。
 女医はストレートの黒髪を背中まで伸ばしたきれいな女性だった。
その容貌に、少女も思わずドキッとした。
「どうぞ、こっちにかけて」
 女医はそう言って、手前の丸椅子に座るよう促した。
「はい。よろしくお願いします」
 少女はそう言って、また礼をした。
「あら、礼儀正しい子ね」
 女医は少女を見て微笑んだ。
 それでも、少女の顔はこわばったままだった。
 女医はカルテに目をやりながら、少女に問診を始めた。
「平嶋紗智子さんね??????今、何年生?」
「はい、中学一年生です」
 少女は緊張しながらも、はきはきとした口調で答えた。
「今日は、健康診断の再検査ということで来たのよね?」
「はい、そうです」
「えっと??????項目は、尿検査と、貧血検査と、心電図で合ってるのよね?」
「はい」
 少女が来院した理由は、受付の時にある程度は話していた。
その内容は、あらかじめ女医に伝えられていた。
「こういう検査結果が出たことに、自分で何か心当たりはある?」
「はい??????最近、体調が良くないんです」
「どんなふうに?」
「あの??????一ヶ月くらい前から、何となく体がだるくて、疲れが取れない感じなんです。
それに、特ここ二週間くらい熱っぽいんです。
今朝も体温を測ったら、七度九分ありました。
それに、頭痛とか腹痛もけっこう最近あるんです。
それから??????生理のも十日くらい遅れてるんです」
 女医は少女の言葉をカルテに手際よく書き込んでいった。
「初潮を迎えたのはいつ頃なの?」
「それは??????」
 少女は少し頬を赤らめた。生理のことを話すのは、やはり恥ずかしいのだ。
 それでも、少女はきっぱりと答えた。
「入学する前??????三月の終わり頃です」
「それじゃあ、まだ二ヶ月なんだ??????」
「はい」
「だったら、それはたぶん心配いらないと思う。月経の周期は最初の頃は安定しないものだから」
 女医の言葉を聞いて、こわばっていて少女の表情が少しだけ和らいだ。
「そうなんですか?」
「うん。まああなたの年頃だと、ちょうど体がいろいろと変わっていく時期だから、
ちょっとしたことでも不安になるのも無理ないわね」
「はい??????」
 少女はうつむいて、はにかむような顔をした。
 女医は一旦ペンを置いて、少女の方に向き直った。
そして、きっぱりと言った。
「それじゃあ、これから心電図検査と血液検査、それに尿検査をします」
「はい」
 少女はこくんとうなずいた。唇を思わずかみしめていた。
 女医の後ろで、若い看護士が微笑んだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。リラックスして」
 少女は少しだけ口元を緩めて、また「はい」と返事した。


 その後、少女は診察室を出ることになった。
女医によると、検査をするのは診察室ではなく、処置室だという。
「ありがとうございました」
 診察室を出る時、少女は女医に頭を下げて礼を言った。
 女医はおかしそうに笑った。
「私も後から行くから。平嶋さんは先に処置室に行って待っていなさい」
 少女は女医と話をするのはこれで終わりだと誤解していた。
勘違いに気づいて、少女は頬を赤らめた。
 少女は一人で診察室を出た。
 待合室は、さっきよりも人が減って静かになっている。
時計を見ると五時半を過ぎている。この小児科医院の診察時間は六時までだ。
診察室を出て左側は、通路になっている。
そこを真っ直ぐ進んで突き当たりにある少し小さな部屋が、処置室である。
 診察室のドアを閉めて、少女は通路を歩いた。だが、その途中で後ろを振り返った。
 女医も、二人の看護士も、診察室から出てこない。
どうやら、一人で処置室に行くことになっているようだ。
 少女は急に心細くなった。
 検査を受けて悪い結果が出るかもしれない。
その不安を、この病院に来てからずっと抑えていた。
だが一人になると、不安な気持ちが余計に大きくなってしまいそうな気がした。
 少女は、小さくかぶりを振った。
「怖がっても、しょうがないじゃない??????」
 自分に言い聞かせるようにつぶやいた。そしてもう一度、通路を歩き出した。
 処置室は、木製の扉が半開きになっていて、そこから明かりがもれていた。
 診察室と動揺に、プレートの文字が消えかかっている。
扉はだいぶ古く、ペンキがところどころはがれ落ちていた。
 扉を開けると、強い薬のにおいがまず鼻についた。
「失礼します」
 しかし、中には誰もいなかった。
 部屋自体は思ったより狭かった。
左の壁際にベッド、正面の奥には身長と体重の測定器があった。
右側は、手前には金属製の戸棚、その向こう側には検査用と思われる機器が置かれていた。
少女は、ベッドと戸棚の間に進んでいった。
 ベッドに腰かけて、部屋全体を見渡してみる。
 天井では、蛍光灯が冷たい光を発している。
戸棚や様々な診察器具に囲まれて、少女は妙な圧迫感を覚えた。
 一人でベッドに腰かけていると、また表情がこわばってしまう。
両手を胸元にそっと押し当てると、心臓がいつもより速く波打っていた。
(落ち着いて??????大丈夫??????大丈夫だから??????) 
 少女は心の中でそう言って、自分を励ましていた。
 少女はしばらくベッドに腰かけて待っていた。
 そして五分ほど過ぎた時、処置室のドアが開いた。
 少女はうつむいていた顔を上げた。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
 入ってきたのは、さっき診察室にいた若い看護士だった。
「いいえ??????あの??????よろしくお願いします」
 少女はベッドに腰かけたまま、ぺこりと頭を下げた。
 看護士はにこっと微笑んだ。
「はーい、平嶋さんも気持ちを楽にしてね」
 少女は一瞬だけ口元に笑みを浮かべた。
だがすぐに、少女の表情はこわばっていった。
 看護士はそんな少女を心配そうな目で見つめながら、戸棚から器具を取り出したり、
機械をセットしたりと、検査の準備を進めていった。
「じゃあ、まずは心電図の検査からしますからね」
「??????はい」
 少女の声はさっきより弱々しかった。次第に緊張感が高まってきたのだ。
 それに、少女の表情をこわばらせているのは、検査結果への不安だけではなかった。
「平嶋さん、心電図検査の受け方はもう知っているわよね?」
 看護士の言葉に、少女は一瞬びくっとした。
「??????はい、知ってます」
 少女は、頬を少し紅潮させていた。
「平嶋さん」
 少女が顔を上げると、看護士はおかしそうに笑っていた。
「もしかして??????裸になるのが、恥ずかしいの?」
 少女は唇をきゅっとかんで、すぐには答えなかった。
 少し間をおいて、少女はうつむいたまま口を開いた。
「はい??????そうです」
「えっ?」
 看護士は、少女が何を言っているのかすぐには分からなかった。
少女がすぐに答えなかったため、質問をはぐらかされたものと思っていたのだ。
 少女は、今度は顔を上げて口を開いた。
「恥ずかしいんです??????裸になるのが??????」
 少女はそう言うと、少しはにかんだ。
 素直な気持ちを話してから、少女は急に気恥ずかしくなった。
「ごめんなさい??????そんなこと言ってる場合じゃないですよね??????」
「ううん、いいのよ。だって、もう中学生だもんね」
「でも??????検査のためだから、少しくらい恥ずかしいのは??????我慢しなきゃダメですよね??????」
 看護士に言っているというよりは、自分に言い聞かせているような口調だった。
 看護士は微笑んだ。
「ふふ、えらいのね、ちゃんと自分で分かってるんだ。
そうよ、少しくらい恥ずかしいのは我慢しなきゃね。
それに、この病院は女の人しかいないし、大丈夫だよ」
「はい」
 少女は気恥ずかしそうに笑って、こくんとうなずいた。

メニューへ 妄想小説へ 次へ進む

動画 アダルト動画 ライブチャット