えりさんの作品

えりの「いや〜ん、あんあん」8


 害虫狩りは、あまり長い時間やっていると誰かに見られるおそれがあります。
それに、ダメージを与えすぎて重症になると事件になってしまうので、ほどほどに切り上げるのがコツです。
 袋を取って後ろから蹴っ飛ばして、相手が倒れるのを確認すると、みんな一目散に逃げ出します。
 そして後で約束の場所に合流するのです。
 こういうやり方で、事件にならないホームレス狩りはいっぱいあると思います。

 姫路の事件にあったような、遠くからものを投げるというのも、よくやりました。
 河原にホームレスが立てたダンボールハウスを目がけて、道路の上から投げるのです。
何度か投げたら、すぐに逃げるのがコツです。
 そして後で、なにくわぬ顔でまた道路を通ってどうなっているかたしかめるのです。
そのときも、あまりゆっくり立ち止まったりしないで、普通の通行人のフリをするのです。
 あまり大きな集落になっているところに投げると、事件になってしまうおそれがあるので、
その日建てられたばかりのようなダンボールハウスを狙うのです。
場所も、一回一回変えるのと、人が来ないか見張りを立てておくことも必要です。
 私も、よく見張り役をさせられました。
 あと、日にちは置いて、続けてやらないことですね。
  
 姫路の少年たちが今回やりすぎたのは、被害者の男性の足が悪いことをなにかのときに知って、
その弱点を突かない手はないと思ってしまったのだと思います。
 いじめっ子は、そういう攻撃する相手の弱いところ、触られたくないところに敏感なのです。
 もうそれを知ったら、やりたくてやりたくてしょうがない。
多少バレる心配があっても、賭けに出るのだと思います。
 それにゲームって、ある程度はスリルがないと面白くないですからね。
 警察に調べを受けたときがゲームオーバー。
素直に認めたのだと思います。
彼らは基本的には素直な子たちだからです。

 大人たちに反抗しているのではなく、ゲームをしているだけだから。

 世の中で汚いと思われていて、邪魔者だと思われている害虫のホームレスをやっつけるのだと、
よくいじめっ子たちは言っていました。
 大人の本音を代わって実行しているだけ。
 もし失敗したとするなら、それはバレるようにやったから。

 いじめとまったく同じです。

 「あの頃は楽しかったなあ。いまでもおんなじようなことやるやつがいるけど、懐かしく感じるよ」
 あの襲撃の晩と同じように、いじめっ子は私の胸元に手を突っ込んで容赦なく爪を立てます。
 「ホントはもっとやりたかったな。バレなかったら殺すまで」
 
 もちろん、これはいまの私の耳に聞こえてくる幻想の声です。
 でも、これが、全国の、いまだにバレずに害虫狩りをやっているたくさんの少年たちの本音だと思います。
 
 え?
 おそろしい世の中ですって?
 そんなことないですよ。彼らはとっても素直で明るい子どもたちです。
 ただ、ときどき正直な気持ちを発散させるだけです。
 それって、とっても健全なことだと思いませんか?

 いまでも、見張りで立たされながら、あとで戦果を報告し合ういじめっ子たちの表情を
 どきどきしながら待っていたあのときのことを、思い出します。

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