えりさんの作品

えりは十五歳 2



あの日から、弟と家で会っても口もきけない。
えりには、もうなにも守るべきものがなくなった。
綱引きの手を緩めるように、もう、自分を楽にしてもいいんじゃないかと考えたのだ。
真里の自殺は「死」という希望をくれた。
自分も死ねると思ったとたんに、心が楽になった。
えりは、旧校舎に足を踏み入れた。
そこは、自分の人間としての尊厳が、何度も踏みにじられた場所だ。
あるときは、輪姦の舞台として。
あるときは、人間狩りのエアガンの標的となる舞台として。
 理科室と同じで、そこでの叫びは、誰にも届かなかった。
いや、届いたとしても、誰もが聞かないふりをし続けた。
その同じ場所に、えりは自殺しようと思ったその晩、自ら足を踏み入れた。
足元には、砕けたガラスの破片があった。
かつてえりが人間狩りの標的になったとき、校舎の外に逃げられないように、
入り口付近にはガラスを割って破片がばら撒かれた。
何も着ることは許されず、裸足で歩かされたえりたちは、そこから外に出ることはできなかった。
そして一分だけ校舎の中を逃げることが許された後、男子たちがエアガンで校内を探し回る。
物陰に隠れても、やがて見つかってしまう。逃げても、四方から囲まれる。
身体中に蛍光塗料で「1号」「2号」と書かれた生まれたままの奴隷たちは、遠くからも目立った。
エアガンの銃口は正確に狙いを定めた。
五発撃ち込まれれば「捕獲」となる。
えりは、こんなときにも計算していた。
逃げすぎてもハンターたちをあおってしまう。
適度に本気で逃げ、きりのいいところで標的になる。
「いやあああああああああ。もうこんなのいやだあ。殺して! 死にたい、死にたいよおおおおお」
いつも真っ先に捕まる要領の悪い3号・真里は、その日、逃げることも放棄して
その場にうずくまって泣き叫んだ。
真里は、男子たちに引き立てられ、教壇の上に立たされた。
 やがてターゲットとして捕獲されたえりたちの目の前で、「処刑」は行われた。
 「本気でゲームに参加しないやつは、こうなるんだ!」「おぼえとけ!」
 四方からエアガンを撃ち込まれる3号を、えりは冷たい目で見つめていた。

3号の自殺で、人間狩りはあれ以来行われていなかった。
真里はあのときの叫びのとおりに、本当に死んでしまった。
だが遺書は残さなかった。
前の人間狩りのときのガラスの破片は、もう掃除されていたが、案の定、いくつかの破片は残っていた。
えりは手袋をして、持ってきたビンに、それをひとつひとつ詰めた。
細かい砂のようになっているものまで拾い集めた。
これを持って帰って、いつか、そのときがきたら、私はこれを飲み干そう。そして、死のう。
そう考えると、どんなことにも耐えられる気がした。
そのビンを、えりは自分の家のトイレの棚の上にある、トイレットペーパーのロールの裏に
ある壁が剥がれてある場所の裏に隠した。
えりは貧しい家で育ったから、自分の個室は持っていない。
誰にもわからない場所はそこしか考え付かなかった。
トイレの紙の交換は、家のことは任されている自分しかすることはない。
だから、この場所もわからない。
秘密の場所に自分の決意を隠して、えりはもう少しがんばれる気がしてきた。
もう、なんのためかはわからないけれど。

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