えりさんの作品

再会 その5 えりの気持ち編



 木村君をどうやって捜そうか。
 その方法がわからないでいるうちに、えりは昔彼を見かけたスーパーに立ち寄っていた。
 マスコミの餌食になっているA少年こと木村君の消息を探す人は多い。
 いまさら、昔住んでいた場所のスーパーなんかにいるはずがない。
 でも、それでもいくあてなくさまよっているうちに、ここに来てしまう。
 そんなある日、ついにえりは木村君を目撃した。
 彼は、やっぱりここにいたんだ。
 えりの胸に、甘酸っぱい思いがわきあがった。
 でも駆け寄ることはできなかった。
 ずっと後ろから見ているだけだった。
 木村君は、私に気づいただろうか。
 心臓がばくばくした。
 過去がよみがえった。
 この同じスーパーで、えりは売春をさせられていた。
 エロ雑誌を立ち読みしている男に目をつけ、あとをつけて後ろから声をかけるのだ。
 話がつくと一万円で、男子トイレで抱かれる。
 お金はすべて木村君に巻き上げられた。
 もちろん、ちゃんと客をさがしているか、木村君は近くから見張っていた。
 見知らぬ男に声をかけて好奇の目で見られるのはものすごく勇気が要った。
 でも、彼の命令だから乗り越えられた。
 だのに同じ私は、同じ場所で、木村君に自分から進んで声をかけることすら出来ない。
 奴隷は、命令を受けないと動けないのだろうか。
 だとしたら、木村君、私に気づいて!
 一生懸命、えりは木村君の背中に念を送った。
 でも彼は気づかなかったようにその場を去っていった。
 えりは昔客引きをした雑誌コーナーに行って、開くともなく雑誌を開いた。
 そこには星占いがあった。
 「勇気を持って踏み出せば、明日は開けるハズ」
 そんな励ましの言葉を、中学時代のえりは読んでは、明日こそいじめ地獄から抜け出そう、
 誰かに助けを求めてでも、と思ったことを思い出す。
 でも、出来なかった。
 そして今の私は、平穏な生活を捨て、いじめの地獄に戻っていくことが出来ない。
 えりは本当に弱虫だ。そう自分に対して思った。 


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