えりさんの作品

再会 その9 えりの気持ち編



 沈黙の中、雨音だけが辺りに響く。その場から逃げ出したくなるような沈黙を、私が破った。
「許すには、条件があります。」
 もう彼は私と同じ立場で話してくれている。
 条件、なんていう、昔じゃ考えられない言葉も、いまなら口に出来る。
「条件?」
木村君が聞き返すと、わたしは頷いた。もう怖いものはない。
「木村様。私を、再び虫2号として扱って下さい。
そうして下されば、過去の事は全て許します。おねがいします、また奴隷にして下さい」
 ついに言ってしまった。
 言ってしまってから、私は、実はその後の木村君の反応をまるで予測していなかったことに気がついた。
でももう、どう思われてもかまわない。
奴隷にしてくれなくても、私の言っていることを不気味に思い、遠ざけられても。
 木村君は携帯の番号を私に渡してくれた。
「少し時間が経ってから連絡をくれ。」
と、だけ言い残し、彼はその場を後にした。
 私は、一人で家に帰った。
 弟に食事も買って帰らなかったことに気がついた。
 でも、今晩ぐらいいいだろう。
 私は今日、自分の時間を自分のために使った。
 それでいい。
 明日からの自分が、木村君の奴隷になる日常だとは思えなかった。
 昨日までと同じ日常が続くほうが自然な気がした。
 シャワーを浴びたら、すっきりした。
 水原君という昔の彼からプレゼントされたイルカの人形と目が合った。
彼はとても優しい人だった。
物足りなく思うこともあったけど、イルカの優しい目が私に微笑みかけているように感じられる。
 私にかわいい人形なんて不釣合いだと言っていたのに、彼は強引に買ってくれた。
いまではそれも、受け入れられる気がする。
 だって私、自分から、奴隷になりたいだなんてメチャクチャなことだって、言えたんですもの。
その日一日は他に何事もなく過ぎた。夜になって、私は木村君に電話をかけた。
せっかく番号を教えてくれたんだ。挨拶ぐらいはしておこうと思った。
木村君はすぐに電話に出てくれた。
「もしもし?」
「木村君?さっきはごめんなさい。突然変な事を言って・・・」
「否、良いよ。こっちも混乱しててさ。どう対処したら良いのか分からなくって、
あんな事になったけど・・・そうだ。今夜もう一度会えないかな?あの後、馬場と会ったのよ。
えりと話しがしたいって言ってた」
 馬場君……その名前を聞いたえりの喉が、ごくりと鳴った。


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