えりさんの作品

えり 断章〜13〜 えりの気持ち 下



 
 「ちょっと待ちなさい」
 姉ヶ崎さんが島くんを止めます。
 私は助かりました。
 「冷静な人間も、一人ぐらい必要だから。でないと、あなた死んじゃうし」という姉ヶ崎さんの言葉を
思い出しました。
 苦しむ私の横で「なんすかあ?」と不満げな島くんのいかにも軽い一言。
 姉ヶ崎さんは「まずはコレよ」とポケットから薬を取り出しました。
 なんでしょうか? これは。
 「ヤバイくすりじゃないでしょうね」
と島くんは半分うれしそうに聞きます。
 いったい、私はなにをされるのでしょうか?
 「抗生物質よ。奴隷が怪我しても化膿しないようにね」
 私は少しホッとしました。劇薬の実験台にでもされるのではないかと思っていたからです。
 同時に、さっきの蹴りによる痛みは、まだ序章だということを、私は悟りました。
私の身体にこれからさらに無数の傷と痣が出来るのです。それは、もう決まったことなのです。
 <こ、これが、大人のイジメなのね>
 私は息を呑みました。
 姉ヶ崎さんは言います。
「昔からいうでしょ、生かさぬよう殺さぬようって。河本君、例のモノ出して」
 河本くんがロッカーの中から一本のガラス瓶を持って来ます。
 「医学部の友人に頼んで新鮮なヤツを手に入れました」
 それには濁った白い液体が満たされていました。
 「さあ、飲みなさい」
 薬も、ただ飲むだけじゃないのです。
飲むこともイジメなのでした。
あまりのことに、私はつい泣きそうな顔になっていたと思います。
これから私はこれを飲むのだろうか。
 「な〜に、昔はもっともっと飲んでいたんじゃないの?それとも直接おちんちんからじゃないとイヤ?」
 男子7人が笑います。
  「あなたのためでもあるのよ。これからのムチャな反省会で、もし怪我でもしたらばい菌が大変でしょ。
心配してるのよ」
 はい。私はこれを飲まなければならない。もう決まっていることなのです。
 私はオズオズと手を出し、姉ヶ崎さんから錠剤、河本くんから瓶を受け取りました。
じっとそれを見つめて、決心を固めます。
 「さっさとしろよ。そんなもんでビビッてたら、この先耐えられないぜ」と島くんが言います。
江田くんが「しょんべんで薄めてやろうか?」とちゃかすとまた笑いが起こりましたが、
私は一瞬本気で信じて震えだしました。
昔はおしっこ飲まされたことだって、精液飲まされたことだってあったのに。
大人になった私はまだ虫に戻りきれていなかったのです。
だからさっきも失神してしまって……そんな私にサークルの皆さんは、
奴隷の現実を教えて下さっているのです。
 「あと10秒で飲み始めないと、、、」
 私は瓶のふたを開けました。錠剤を口に含み、ドロドロの精液の入った瓶に唇をつけました。
 そしてみんなが見守る中、ごくごくとソレを飲み下し始めました。
 「キモチワリ〜〜」と誰かがつぶやきました。
 でも私は、これで昔の自分に、本当の意味で戻れた気がしました。

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