えりさんの作品
えり断章23 えりの気持ち
誰もいない体育館に放置された私たちは、気絶したようにその場に寝ていました。
私の頭の中に、いままでの奴隷としての日々が走馬灯のようによみがえりました。
<木村君、どうしているだろう?>
私は、自分が奴隷になるきっかけとなった中学時代の支配主の顔を思い浮かべたりしていました。
目をさますと、現実がありました。
いままでより上回る苦痛と、そして恐怖が加わった責めに耐えてきたアコが、私の気配に気づいたのか、自分も目を覚ましました。
「えり…大丈夫?」
「……うん、大丈夫。アコこそ、よくがんばったね」
「うん。殺されない限り死ぬもんかって。私、怖かったけど、えりが髪引っ張られてもがんばって走ってるの見て、わかった気がしたよ」
「……うん、虫けらは、最後までじたばたしなくちゃ。たとえ殺虫剤かけられても」
「そうだね」
肩を組んで歩き出しながら、アコは私に聞いてきました。
「一番感じたの、いつ?」
「今日のこと?」
「うん」
「私はね……針でさんざん痛めつけられたおっぱいに、思いっきり竹刀を振り下ろされたとき」
「……そうかあ。あのあと抱かれたとき、えりすっごいぐっしょりしてたって、土井くんが言ってたね」
「……うん、つい」
「私が一番感じたのは、ペナルティで、一度に二本の糸で釣られた時」
右乳首の上と左の乳房の下にヒットした針をギリギリと引っ張られ、
「巨乳釣りだあ」「ハハハッ」という歓声の中で歯を食いしばって汗だくになっている彼女を思い出しました。
「私、おっぱいが大きいこと、ずっとコンプレックスだった。
でも、いまは開き直れる。どんどん笑ってくださいって、思うの。耳たぶが真っ赤になるくらい、恥ずかしいけどね」
おっぱいがそんなに大きくない私は、ちょっと複雑な気持ちになりました。
みんなに貪られる価値を持っている奴隷が、同じ身分としてうらやましかったのです。
私たちは体育館の入り口横に無造作に放ってあったガウンを羽織って、外に出ました。
廊下を通って、旧部室棟に向かいます。
もう夜も更けていましたが、ところどころに活動を続けている部室の明りが光っています。
私たちがどういう存在なのかは、あの部室棟では公然の秘密です。
部室に戻って、服を着るまでは、何度か好奇の目にさらされるに違いありません。
私たちの身体から立ち上っているメスの臭いに勘付く人もいるかもしれません。
もちろん、誰かが私たちを見かけても、見て見ぬふりをするでしょう。
それでも、気配は十分に伝わってきます。
私はアコがまだそういうことに慣れていないことに気づいていました。
だって、外に出てからのアコは私に寄りかかるように身体を寄せてきましたから。
でも、まだまだアコの地獄はこんなものじゃありません。
まだまだ彼女の知らない世界、開けるべき扉は待っています。
もちろん、彼女一人で行かせはしません。地獄の果てまで付き合います。