えりさんの作品

えり断章 番外編 えりの気持ち 上



  私、男性恐怖症みたいなこと言いましたけど、実は女の子の方が怖いんです。
でも、私は中学以来、女の子の友だちが出来たことがなかったので、大学に入ってからしばらくは、
かけがえのない日々でした。
 そのことを、失って気づいたのです。
 三日に二日は休まないで学校に行ったのも、女の子どうしの気遣いのない付き合いがあったからです。

 え? いまは?ですって?
 たしかに、大学はやめたってべつにいいですよね。
 はい。奴隷になってからは、一日も休んでいませんよ。

 私がふたたび奴隷になってから少し経った頃、前によく食事をしていた藤本明子さんが寄ってきました。
藤本さんは、私と同い年ですが、あまり化粧っ気のない人です。
 彼女は少し遠慮がちに話しかけてきて、駅から学校への道をしばらく歩きながら、
とぎれとぎれに二人で会話しました。
 そして、思い切ったように、言いました。
「危ないサークルの人と付き合ってるって、本当?」
 私はびっくりして、黙ってしまいました。
「みかちゃんが見たって。あの、古い部室とかある建物にえりが出入りしてるの」
 そして、藤本さんは言いにくそうに続けました。
「男の人と……一緒に……」
 私は口を開くことが出来ませんでした。
 「えりのこと詮索したいわけじゃないの……でもちょっと、意外な感じがしたから」
 思わず目を見返してしまった私に、藤本さんは慌てて付け加えました。
「いや、あの、えりがどうしたとかじゃなくて……怖い噂のあるサークルでしょう?」
 私はそこでやっと口を開きました。
 「怖い噂って……?」
 「いや、聞いただけだけど、騙されてひどいことされた人たちがいるって……わからないけど
……ごめんね、いい加減なこと言って」
 一週間ほど前、急にサカリのついたサークルの男子に無理やり腕を組まれて部室に
連れて行かれようとしていたとき、私は藤本さんが遠くから見ていたのを知っていました。
 彼女は呆然として、ただ立ちすくんでいただけでした。
 みかちゃんから聞いただけじゃないのです。ちゃんと、自分でも見ていたのです。
 私はふっと笑いました。
 この人もおんなじだ。中学生のときの、あのクラスの傍観者だった女の子たちと。
 自分ではなにもしない。動くことも出来ない。
 ただ、噂話をしているだけ。

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