えりさんの作品

えりの新いや〜ん、あんあん 2



自殺する前に人は嘘をつけるでしょうか。そこにはいじめっ子への告発は、自然な感情として存在しなかったのです。
彼らいじめっ子をもし悪だと言うなら、本当に悪いのは、彼らからいじめられる日々に絶望し、
苦しみながらもその中で歓喜に震え、イキ果ててしまった自分自身だと、少年は思っていたのではないでしょうか。

 ですから少年には死によって苦しみから解放される安心はあっても、いじめっ子への怒りは本心からなかったと私には思えます。

 これは、私の独断と偏見かもしれません。
 少年のご両親からしたら、冒涜に感じられるかもしれません。

 でも私にはわかる気がするのです。
 同じくクラスのみんなの前でストリップさせられて、オナニーさせられた身としては。
 いま「オナニーさせられた」と書きましたが、服を脱いで、実際に指を動かしていたのは私自身なんです。
 これは、どんなに言い訳しても、言い訳しきれません。
 いじめっ子たちは私の弟からお金を奪い、鼓膜を破り、人格を崩壊させてしまいました。
 そんな人たちの前で、イッてしまったことは、それこそ、死んでお詫びをするぐらいでなければ、いけないかもしれません。

 でも私は生きることを選んでしまいました。

 少年は、おそらく異性とセックスすることもなく、童貞のまま、でもいじめられて射精することだけは覚えさせられて、
そんな自分が許せなくて自ら命を絶ちました。
 異性によって無理やり侵入され、セックス奴隷にさせられてしまった私には、彼は純粋なまま死んだ、綺麗な存在に感じられます。

 マゾヒストとして、完璧に美しいまま死んでいったのだと。
 彼をマゾヒストと呼ぶのは言いすぎでしょうか。
  マゾヒストの神髄は、いじめられることに愉悦を感じながらも、そんな自分を悲しみ、
まともな人間でないことに苦しみ続けることにあるのだと私は思います。
 葛藤がない快楽ごときに耽るのは、それはマゾヒストではありません。

 快楽を感じてしまった自分に葛藤し続けた彼は最後の遺書にさえ、いじめっ子の名前すら書きませんでした。
名前は書けません、と自ら記していました。

そんな美しいマゾヒストを作り上げた、A県N市の少年の同級生たちの「ハード」さに対して、私は同じマゾヒストとして、
憤りどころか賞賛を惜しみたくありません。
 素晴らしいS男性たちだったと思います。最後まで、自分たちに告発の一言もいわせなかったのですから。

 きっとカッコイイ少年たちだったんだろうなと思います。不良だったのかもしれませんが、
友達にも先生にも受けがよい子たちだったんじゃないでしょうか。
 だから学校は少年が自殺するまでいじめを発見できなかったのだと思います。
 死んだ少年も、彼らにどこか憧れていたのではないでしょうか。

 見た目もよくて、要領もよく、人当たりもいい子たちの裏側にある黒い欲望を一身に背負って、
自ら命を絶つその日までいびられ続ける……考えるだけで興奮します。

 彼らはああいう遺書が世に出たおかげで少年院に入ったようですが、たまたま運が悪かっただけで、
社会のどこでも生きていける人たちだと思います。
 彼らの前途有望な将来を、一マゾ女性として心よりお祈り申し上げます。

彼らもいまはもう三十歳ぐらいでしょうか。まだまだ枯れる歳じゃないですね。
 ひょっとしたら私のような昔いじめられていた女のマゾ性を見抜いて、
奴隷にしながら面白おかしく暮らしているかもしれません。
「俺は昔、いじめで自殺に追い込んだことがあるんだぜ」とか言って、
昔の要領で奴隷の顔を水に漬けて窒息寸前まで責めたりして……。
 そんなことされたら私、なんでも従っちゃいそう。

 私がもし当時の彼らと同じ学校のクラスメイトだったらと、憧れてしまいます。
 彼らのいじめっ子の嗅覚は、こんなマゾ女、絶対見逃さないでしょう。
 そしたら、当時のハードないじめに女の子を犯したり性的玩具にすることまで加わちゃって……大変なことになるでしょうね。


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