えりさんの作品
えりヒストリー その後B 偽りの懺悔
そこへ、サークルの河本くんが部室に入ってきました。
「ほう、姉ヶ崎女史自らえりを可愛がってるんだ。そんなの久しぶりじゃないの」
姉ヶ崎さんは河本くんに目で応えただけで、私への質問を続けます。
「フフ、中学時代のあなたは弟とセックスしたんでしょう?」
「……はい。強制されたとはいえ、したことは事実です、私は自分の身を犠牲にしたのに、
まだ弟へのいじめが終わってないと聞いて、絶望しました。私に何も言わなかった弟への憤りすらありました。
でも弟に当時何が出来たでしょう、ごめんね、ごめんね」
「あなたは弟とのセックスで、イッたのね」
「はい、イキました。よく実の弟とでイケるな、と笑われました」
近くの長椅子に座った河本くんが参加してきました。
「弟の方だって勃ったんだよな」
「……」
「えり、答えなさい」
私は紐を引っ張られ、激痛の中で答えました。
「はい、ごめんね俊樹、私がいやらしいおかげで、あなたに恥をかかせてしまって」
私は弟の名を呼びました。
姉ヶ崎さんは河本くんに振り返って言います。
「いま、えりに懺悔させてるの。奴隷の分際で人さまに罪の意識を持っているらしいから」
「ふうん」と河本くんはニヤニヤしています。
「三位を言いなさい」
「はい。同じクラスだった、ええと、ええと、名前は忘れたんですけど、私をいじめからかばって自分もいじめられた男の子です」
「お前、懺悔しながら、相手の名前も忘れてるの」
姉ヶ崎さんは心底呆れたように言います。
私はハッとしました。なぜ忘れてしまったんでしょう。
「お前をいじめていたクラスのリーダーの名前は、なにかしら?」
「木村くんです」
「ふふ、あなたは自分や弟をひどい目にあわせた人の名前は覚えていても、
犠牲になって自分をかばったクラスメイトの名前は覚えていない」
河本くんが口を開きます。
「そんなの当然だろ、いじめられてるやつなんて、ただの空気以下なんだからよ」
姉ヶ崎さんは笑顔で言います。
「あなたの弟だって、いじめっ子たちから見れば、その程度の存在だったでしょうね」
私はその瞬間、頭の中で何かがはじけました。
その通りだと思いました。犠牲者だと思っていた自分だって、いじめっ子と同じような価値観を持っていたのです。
人に優劣や順位を付ける、そんなことは自分だけはしないいと思っていました。
最下層の奴隷は、自分でいいのだと。そうなりきることによって、懺悔しているつもりになっていました。
そんな私は、なんと浅はかだったのでしょう。
しかもそういう私の正体を、いじめる側の人たちにいとも簡単に見抜かれてしまうなんて。
被害者意識を持っている側には、見えないものがある。
私のように、いくら感謝の念や積極的な奴隷精神を持とうしても、結局被害者であるという主観から逃れられない。
その意味でも、奴隷根性の持ち主はサディストの方の知的さにいつまでもかなわないのです。