えりさんの作品

奴隷階級えり・2

 奴隷はお互い「友だち」でもなく「仲間」でもない。
 言ってみれば「階級」「身分」がふさわしいと思います。

 いま考えれば、世の中にある他の「階級」「身分」とも違う気がします。
 私は日本に住むアジアの国の血筋に生まれました。
 そのことで、住むところも就職も差別を受けてきました。

 でも、それと私が奴隷であることは一緒じゃないと思うんです。
そういう血筋だったとしても、隠したり、器用にやっていじめられることもなかった人たちもいたと思うのです。

 私は家も貧乏でしたし、お弁当も日本人の普通のおかずに比べたら臭いの強いものでしたので、
わかりやすかったというか、目をつけられやすかったのだと思います。

 私は奴隷2号とか虫2号と呼ばれていました。
 奴隷3号、虫3号と呼ばれていた子は葬儀屋の子で、小学生のときから
「エンガチョ切った」といじめられていました。
 奴隷1号、虫1号と呼ばれていた子は耳たぶの後ろに痣があって、
やっぱり昔からからかわれていました。大柄でしたが、いつもうつむきがちに歩いていました。

 葬儀屋に生まれたり、顔に痣があったりしたら、たしかに目を付けられやすいでしょう。
 でもだからといって、必ずみんなの奴隷になるわけではないと思います。

 三人とも、いや三匹とも、本当はいじめる側にとって、理由なんかどうでもよかったのではないでしょうか。
 つけ込める材料、ネタがあれば良かったのです。
 
 私は卒業した後、民族教育に目覚め、自分がいじめられたのは自国民としての誇りを
持っていなかったからだ、日本人に引け目を感じていたからだと思おうとしました。
たしかに、意識を変えることによって、私の生活は明るくなり、いじめの地獄は遠い昔話のようになりました。

 でも、いまになって気づくのです。
 私は日本人でないから差別を受けたのではなく、差別を口実にいじめられていただけだったのだと。
いじめっ子は色んな弱みを持った人間を鋭く嗅ぎ分けて、奴隷にしただけ。

 え? それは同じことじゃないかですって?

 周りから見れば同じかもしれません。私の同胞も同じことだと言うでしょう。
しかし私にとっては全然違うのです。

 日本人でないから差別を受けたのだったら、自分がその国の人間として誇りを持てばいい。
 でもいじめっ子たちは、私がいなければ、他を探していただけでしょう。

 私は民族の誇りを持つことが出来ました。
 でも、奴隷1号としての誇りを持ってはいませんでした。
それはあくまで人間としては最低の屈辱で、お互いから目をそむけるしかない立場でした。
 私は、そのことに素直になろうと思います。

 それは、私の持てるただひとつの勇気です。
 
 いじめ地獄から脱出した後、私が持つことが出来た民族の誇りですが、でもそれは後天的なものでした。
 私は母国で育った人間ではないのですから。
 頭の中だけではない、母国の匂いや手触りを知りません。

 ここまで言えばおわかりですね。
 私の持つ匂いや手触り、それは……。
 必ず自分の上か下の粘膜で包まなければならなかった、いじめっ子たちのムンムンしたおちんちん、
思い出すだけでつらいウンコまみれのお尻の穴、裸で歩く廊下のひんやりした感触、
校庭のゴツゴツした小さな砂利、被虐で濡れた奴隷同士の淫蜜を愛撫させられたときのお互いの
ドロドロの顔、激痛を与えてくれた針や画鋲、定規やベルト……それが、私の故郷の記憶です。

「私は日本に生まれたある国の三世です。
でも、私がふるさとと呼べるところは、ひとつしかありません。
それは、私を奴隷2号と名づけてくださった場所です。
そこに居たときのことが、家庭や母国より、ずっとずっと大きいんです。
だって私、そこに居たよりも前や後のことなんて、薄ぼんやりとしか記憶にありませんもの」

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