イブさんの作品

第1章 プロジェクト始動 その1:ユキ

ハルは比較的大人しいタイプの生徒だった。
別に嫌われるでもないが、取り立ててリーダー的存在になるでもない、そんな「中間」に位置する、
目立たない女子だった。
というか、クラスの誰もが、そう「誤解」していた。
 そう、それは「誤解」だったのだ……。

 つまらない。ハルは突然、そう思った。
机の上にはきちんと夏休み中に終えた宿題がそろえて置いてある。
ハルは肩より長い髪をいじりつつ、それを眺めながら、明日からまた学校だ、と思った。
高校に入って半年が経つが、なんだか印象に残ることもこれといってなかった。
「そういえば……」
 気に入らないことだけは、一つ、あった。
クラスの仕切屋、ユキ。
援助交際だかなんだかで男とヤったことがあるのをやたら自慢していたから、
私もヤったことあるよ、と言ったら、それ以来上履きを隠されたり、ちょっとした嫌がらせをされた。
「よし……」
 ハルはにっと笑った。やっと、楽しくなりそうだ。彼女はそう思っていた。

 二学期最初の日、いつもより遅めに学校に行ったハルは、下駄箱からユキの靴を盗み、
それを持ったまま教室に向かった。
「おはよう」
 廊下でハルの親友とも言えるユカリが、明るく声をかけた。
「その靴、どうしたの?下駄箱においてこなかったの?」
「これ、アタシんじゃないから」
「え?」
「まあ、ついてきなよ。面白い光景、見せてあげる」
 ユカリは、これが親友じゃなかったらそそくさと逃げているところだ、と思った。
ハルの目は、これまで見たことのないくらい、鋭い光を持っていた。
「おはよう、ユキ」
 教室に入ると、靴をぶらぶらさせて、ハルは言った。
「ちょっと、それ、私の靴じゃん」
「そうだよ」
 笑顔で言いながら、ハルはユキの目の前で靴をゴミ箱に捨てた。
「何すんの!」
 ヒステリックな声を上げて、ゴミ箱に近づき、中をのぞき込むユキの頭を、ハルは右手で押さえこんだ。
顔がゴミ箱の中に入る。
まだゴミは捨てられておらず、幸いゴミの中に顔を突っ込む羽目にはならなかったが、
突然の事態にユキはパニック状態だった。
「ちょっ…何するのよ、はなしなさいよ」
 顔を上げようと必死に抵抗するが、ハルは笑って頭を押さえたままだ。
「アンタ、一学期にアタシの上履き隠したでしょ。目には目を、よ」
「知らないわよっ、いいから手えどけろっての!」
 ユキの言葉が荒くなる。二人のやりとりに、教室の生徒達も段々と騒ぎ始めていた。
ユキのとりまきのアヤとカナコが慌ててやってきた。
「ちょっとはなしなよね」「何やってんだよ」
 二人ともすでにかなりの勢いで怒っていた。
「ユカリ、悪いけどちょっとそいつらこっちこさせないで」
 ハルはユキのこのみっともない姿を堪能するように眺めながら、そう言った。
突然言われてユカリは一瞬びっくりしたが、親友だし、
何よりもハルのこんな恐ろしい姿を見るのが初めてで、逆らえなかった。
ユカリが通せんぼのように両手を広げ、二人が近づくのを阻止する。
「じゃあ男子のみんな、注目〜」
 ハルが声をあげ、ユキの抵抗が一層強まった。
「何、何する気よ!ふっざけんな!いい加減にしろよ」
 ゴミ箱の中でギャーギャーわめくユキだったが、ハルはそんな言葉におかまいなしに、
頭を押さえた手に力を込める。
「きゃあっ!」
 床にしっかりとついていたユキの両足が、右足はつま先立ちになり、
左足は床から離れてしまった。
ハルはその光景を楽しそうに眺める。
その目には、さっきから左手で一生懸命スカートを引っ張って隠している下着がチラチラしていた。
「ほらほら、パンツ見えちゃうよ」
 わざと恥ずかしさを刺激するようなことを言う。
「やぁだぁ〜っ!っもぉ!はなせって言ってんだろ!殺すぞ!」
「うるせーな」
 ハルはユキのスカートをつかんでいる左手を思いっきりひねりあげた。
「痛い!いたぁい〜!」
「はい、男子〜、いくよっ!」
 ユキの手がスカートから離れた隙に、ハルはユキのスカートを勢いよくめくりあげた。
「きゃああああああああああああ!!!!」
 ゴミ箱の中で頭をぶつけるような音がして、ユキがジタバタと動いた。
男子から思わず小さな歓声があがる。
めくりあげたスカートはそのまま上でハルが押さえてしまったのでユキはパンツ丸見え状態だ。
「いやだ!ちょ…やぁだぁ〜っっ!!」
 半泣きになって情けない声を出すユキに、ハルは笑って言う。
「こんぐらい平気だろ?アタシのこと殺すっつったもんなぁ、ユキは」
「もぉやだ!出して!やめて!スカートもどしてぇ!」
 ユキの取り乱した声が響く。
ユカリに抵抗していたアヤとカナコも、自然とハルに文句を言おうという気が失せていた。
アヤとカナコはお互いに顔を見合わせ、こそこそと席に戻っていった。
それを瞳の端にとらえて、ハルはクスリと笑ったが、二人には何もしなかった。
「スカート丈、校則違反してるからパンツ見えちゃうんだよ?」
「スカート丈の違反なんて…ハ、ハルだってやってんじゃない…。
もう…いいからスカートもどしてよ…」
 もう抵抗することなくゴミ箱に顔を突っ込んだままの姿勢で、それでもそんなセリフを吐くユキに、
ハルはユカリの方を向き、大げさにため息をついてみせた。
「ユカリ、こいつの頭、押さえてて」
 ハルはそう言ってユカリに交代を頼んだ。
「なっ…ちょっと待ってよ!何?今度は何する気?」
 今更焦った声を出すユキは放って置いて、ハルは掃除用具入れからホウキを持ってきた。
「ねえ、ユキ〜?口答えばっかりするヤツにはお仕置きが必要だと思わない?」
「え、何…きゃああっ!」
 ぱぁん!という音が響いて、ハルの持ったホウキがユキの尻を容赦なく叩いた。
「痛い!やめて!」
 ユキの叫びを無視してハルはユキの尻を叩き続けた。
「痛い!痛いってば!」
「お前はバカか?痛いからやってんだろう?」
 冷たく言って、更に力を込める。
「やぁだ!もぉやめてよ!」
「まだだよ」
 そう言ってハルはいきなりユキのパンツをずり下げた。
「きゃああああああああああ!いやぁ!」
 悲鳴が響く。だが、それでもハルは尻を叩く手は止めなかった。
「痛いいぃ〜!!ひいいいい!!」
 痛みが直に来るからか、さっきよりもユキの反応が辛そうだった。
「ごめっ…ごめんなさいぃ〜、も…助けてええええぇっ!!」
 ユキがやっと謝罪を口にしたことで、ハルの手が止まった。
「やっと言ったか………おせーよっ!!」
 強い声で言い、ハルはユキの体を引っ張りあげた。
反動でユキはパンツを下げたままの格好でしりもちをつく。
さんざん叩かれた尻は腫れ上がっていて、しりもちをついただけでもすごく痛くて、
思わず「ひっ」という声が漏れた。ハルがそれを見て笑う。
「はい、じゃー靴は返してやるよ」
 そう言ってユキの頭の上でゴミ箱を逆さまにする。
「んぶっ!っん…やぁ!」
 ゴミがばさばさとユキの頭に降って、靴がゴン、とぶつかった。
「く…やしぃ……」
 両手をぎゅっと握り、涙を流すユキに、ハルは顔を近づけて言った。
「パンツはいてから泣けば?」
 はっとしてユキが赤面する。
「もお…いやああああああああああっ」
 立ち上がってパンツをはくとユキはそのまま走って教室を出ていった。
彼女の背中に、ハルの笑い声が響いていた。

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