続・水銀の世界
「水銀の世界」の続編ができました。
小学生編は万理万さんという方が続きを書いてくださっている
ようなので、私は高校編を書きました。
万理万さん、どこのどなたか存じませんが、ご苦労様です。
第一章 ユイの黙示録
私の家は雑貨屋でしたが、私が中学2年のときにコンビニエンス
・ストアを始めました。
でも店舗の改修・改装その他いろいろな 経費を捻出するために多額の借金をし、その返済に追われる毎日
を送らなければなりませんでした。
しかも、開店以来、収益は思 ったように伸びず、私は公立高校の受験に失敗し、中学を卒業後
は高校に進学せず、家の仕事を手伝わなければなりませんでした。
毎日馬鹿な客にぺこぺこ頭を下げ、借金取りにはセクハラまがい
のことをされ、くやしい思いばかりして1年、2年が過ぎ、私は
18歳になりました。
普通なら高校3年生になっているはずなのに、私だけがどうして
奴隷みたいにアクセク働かなければ
ならないのか。
こんな不公平な世の中なんて、めちゃくちゃにしてやりたい。
めちゃくちゃになってしまえばいい。
阪●大震災が起これば、いい気味だ、もっとたくさん人が死ねばいい、と思い、地下鉄サ●ン
事件が起これば、面白いからもっとやれと思い、エ●プトでおお
ぜいの新婚カップルがテロリストに
射殺されれば、ざまあみろ、 チャラチャラしやがるからアラーの神の怒りに触れたんだと思い、
私は働きながら毎日そんなことばかりを考えて胸苦しいほどで
した。
私の店の近所に「清純学園」というお嬢様ばかりが通う私立女子
高校がありました。
ある日、私は休憩時間に近くの公園に行きました。
5月の青葉・ 若葉の連なりが、風にあおられていっせいになだれ、初夏の光が
みなぎる森閑とした、
「嬰児(みどりご)皆殺されたる緑」に満 ちた公園内を、これまた緑のベレエにブレザーという制服を着た
清純学園の生徒たちが通りかかりました。
どの娘も美しく、溌剌として見えます。彼女たちはふてくされて
ベンチに座っている私のことなど目もくれず、
笑いさざめきながら通り過ぎて行きました。
私の心の中にはじめじめとした沼のようなものがあり、その濁っ
た、冷ややかな水の中に幾条かの光
が差しています。
でも、もっと底の方にはどす黒い怒りの固まりが沈んでいて、光
はそこまで届きません。
私は彼女たちの美しさよりも、明るさよりも、その肯定的な感情
が許せませんでした。
たまたま親から恵まれた環境を与えられたあなたたちに、世界を
肯定する権利なんかないんだ!
私はポケットからナイフを取り出しました。
そしてベンチの背もたれに「復讐」の文字を刻みました。