霧裡爺さんの作品

恥罰学園 10



 そもそも学校とは、ある意味で最も特異な組織である。
集団でいるのに、集団で成すべき目的が存在しないのだ。
他のあらゆる組織、例えば会社やスポーツチームなどには必ず目的が存在している。
と、言うよりも目的を達成させるために集団を作るのだ。
そこでは目的こそが最優先されるので、感情に左右されることなく手を組みやすい。
ピッチャーが嫌いだからと言って、捕らないキャッチャーなんていない。いたら負ける。
この人は嫌いだから一緒に仕事したくありません、なんてのは当然社会では通用しない。
もしもギリギリの戦場で味方の足を引っ張ったりしたら、自分の生命までもが危ないだろう。
目的の高さに比例して、個々の感情は軽視できるのだ。
 では学校の目的とは何か。個人の勉学である。集団でいる意味はほとんど無い。
集団生活を学ぶなどどいうのはとってつけた屁理屈のようなもので、
個別に教育するよりも一同に集めた方が手間がかからないという、
教える側の事情があるだけなのだ。
集団の目的が希薄ならば、個々が感情を抑える必要も無い。
つまり極端に言えば、学校における生徒間のつながりとは感情と
好みが全てに優先されてしまうので、小さなきっかけでも負の感情に流されてしまうと、
いじめなどが発生しやすい環境にあると言える。
また、一般社会とはあまり接点を持たないという閉鎖性も悪影響を及ぼしがちだ。
陰湿なもの達は風通しの良い所を嫌うのだ。
だからこそ教師は注意して目を配り、暗いものを芽のうちに
上手に処理することが求められる。
 今までの明光学園にはそれができていた。
理事長自ら先頭に立って校内を見回り、それとなく問題を未然に防いできたのだ。
賛同し協力してくれる教師も多かった。
それが失われてしまった。どころではない。
生徒の味方だった教師たちは次々と辞めさせられ、
逆に体罰推進派の教師ばかりが増えた。頼みの理事
長さえも理事長室にこもって、理沙や教頭の体罰を支持する始末だ。
逃げ場無く圧迫を受け続ける生徒たちの間に陰湿な空気が漂い、いじめが発生してゆく。
麗美の思惑どおりに。
 
 俯いて歩く生徒の背中を見れば、いくつもの足跡がついていた。
教室でクラスメイトたちに罵倒され、ゴミを投げられながら唇を噛んでいる生徒もいる。
正座して泣いている生徒を囲んで、笑っているものたちもいる。
スカートをめくられ抵抗もせずにパンティを晒されている生徒は、
両の頬が真っ赤に腫れていた。
そこで何が起きているのか、女子トイレから漏れ聞こえるのはサディスティックな恫喝、
笑い、歓声、
許しを請う涙声、押し殺された悲鳴。
屋上の死角になっているスペースに、下着が散乱していたこともあった。
 誰も可哀想な彼女達に手を差し伸べる者は居ない。
伝染されたくないのだ。
自分を守るためには無関心で通すか、積極的にいじめる側に参加するしか
無いと思い込んでいる。
なにせ教師達ですら、そうなのだから。
  
 女子トイレから1人の異様な姿の女生徒が出て来た。
無数の足跡が全身についている。
黒髪にはべっとりとガムがついている。
下半身にスカートは無く、シャツの裾を引っ張って下着を隠そうとしている。
上履きすら無かった。
「や、やめて……返して――」
周囲の好奇の視線と嘲笑を浴びながら、小さな声で哀願を繰り返し片手を伸ばしている。
その先には彼女より少し前にトイレから出て来た一団の1人が、
奪ったスカートを高々と掲げて振り回して笑っていた。
「ほら。取りに来いよ。バーカ。あはははっ」
廊下で円形に広がった6、7人の間をスカートが飛び交う。
それを追って右往左往する彼女の背後から、上履きを奪い持っている2人が近づき、
頭や尻を叩いては離れる。
「痛っ……あっ……やめてよぉ……ねぇ――」
やめるどころか激しさを増してゆき、遠巻きに眺めている見物人からも野次が飛び始めた。
――いいぞ。パンツも脱がせちまえ。
――何、あれ。カワイソー。あはははっ。
――キャハハハ。おもしろそう。全部剥いちゃえ。
増えてゆく野次馬たちは、廊下で楕円形に広がった。
その中心で奪われたスカートを追うのを諦めた彼女は、
少しでも羞恥の部分を隠そうと両手を股間に当てて立ち尽くしている。
そっと1人がその背後に近づいて手を伸ばす。
「あっ!」
白地にさくらんぼ柄のパンティが、一気に膝まで下ろされていた。
ドッと野次馬たちが沸く。
慌ててつかんだ彼女の手と、さらに下げようとする手でパンティの引っ張りあいになった。
拍手が、口笛が、笑いが廊下に響いた。
――なに、逆らってんだよ。こいつ。生意気ー。
――手ぇ、邪魔。
ケータイのカメラを大勢が向けていた。
パンティまで奪われるのは時間の問題だと誰もが思った。その時である。
「静かに! どきなさい! 何の騒ぎです。これは」
鋭い声が全員を凍りつかせた。
人垣の一角が割れてそこから現れたのは、生徒たちに最も恐れられ嫌われている
臨時教師の外園理沙であった。


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