霧裡爺さんの作品

電車3



 由紀子に反抗の気持ちは、みじんも残ってなかった。
気力もなかった。
殴る蹴るなどの単純な暴力以上のものを受け続けたのだ。
 両の鼻の穴の奥深くまで、錆だらけの太い釘を入れられ、それで引っ張られて倉庫中を歩かされた。
 乳首をペンチで挟まれたまま、四つ足で歩かされた。
 尻を両手で開くよう命じられ、アナルの奥深くまで長くて太いドライバーを入れられ、
抜け落ちるまで尻を振らされたり、飛び跳ねさせられた。
 性器を開かされ、クリトリスを剥かれ、そこを細長いペンチで挟まれ、
捻られ、「このまま潰してやろうか」と、じわじわ力を加えられて、泣きながらオシッコを漏らして許しを請うた。
 怖くて恐ろしくてたまらなかった。
 楽しそうに笑って手馴れた様子でリンチを行い、エスカレートさせてゆく彼女たちが恐ろしかった。
 だから、『臭ぇ』と叱られて、自分のオシッコを舐めろと言われても従った。
『自分の漏らした臭いオシッコを舐めてます』と、言わされ、名前と年齢も言わされ、
尻を蹴られながら這って床の上のオシッコを舐めているところをビデオに撮られた。
 涙や尿といっしょに、意地も誇りも流れていった。
 少女たちに笑われようとバカにされようと、蹴られても唾を吐きかけられても逆らわずに言いなりになった。
 少しでも早く、少女たちが自分に飽きてくれるのを願い、今日という悪夢の1日が過ぎ去ってくれるのを願った。
 だから自分の身体に塗られるのだと聞かされても、由紀子は渡された山芋を素直にすりおろした。
「よかったよな、オバサン。まだ山芋なんかで許してもらえてさ。ラッキーな方なんだぜ」
 唇の端にピアスをしている少女が、由紀子の尻を軽く蹴り、
「ほら。こないだの大学生の女。やたら反抗的だったからムチャクチャやったじゃん」
と、仲間の方に振り返って言った。
「あ。オレ、そんときは来れなかったな。どうだったん?」
「ひひっ。からし&わっさっびー。なっ」
 床にあぐらをかいて座っている少女が、思い出し笑いをしながら答えた。
「ああ。チューブ1本ずつ使い切ったからなー。うるさかったぜー。泣くわ喚くわ転がるわ。ははっ」
「どっちだっけ? マンコにわさびで、ケツがからし……あれ?」
「ちげーよ。おめえが言ったんだろ。ケツにからしじゃウンコみたいだから逆にしようって。
どっちも奥まで注入して、表面にもすりこんでやってよ」
「そうそう。そんで、あんまり騒ぐから逆さ吊り」
 次々と少女たちが話の輪に加わってくる。楽しい思い出話のように。
「おまえ、立ちションして、逆さまのあいつの顔にかけてやったんだよな」
「マジか。よく、やるぜ」
「あ。動画あんぞ。見るか?」
 携帯に群がった少女たちから歓声が上がった。
「おほっ! エッグいなー」
「親切に洗ってやってんだよ。あんまり痛がって泣くもんだから」
「マンコ広げさせてオシッコかけてか」
「後ろは浣腸してやってな。優しいよなー、ウチらって」
「クセーから外でやらせたけどな。そうだ。それが緑色でよ。あれは笑ったぜ」
 少女たちが、ゲラゲラと笑った。
「あれからあいつ見たのいる? ウチらの姿見たら、どこでも土下座して挨拶するように言ってあんだけど」
「見ないなー。家にこもって泣いてんじゃね?」
「今度いきなり行ってみっか。そんなに遠くないし」
「いいねー。感激して泣き出すかもよ」
 そこでまた少女たちが笑った。
 由紀子は山芋をすりおろしながら震えていた。
こんな少女たちと関わってしまった運のなさを呪い、
しばらくはバカな夫について行って東北へ逃げていようと考えていた。
 いくらこの悪魔たちでも、そこまでは来ないだろう。そのうちに忘れてしまうだろう、と。
「おい! できたのかよ、オバサーン」
「はっ、はい……これで……」
 由紀子は、すりおろした大量のとろろ汁を容器に入れて少女に差し出した。
「うへー。濃いなー、これ。なんかさ、見てるだけでムズ痒くなりそうなんだけど」
 すでに由紀子の両手の指は、相当に痒くなっている。
「ねえ、オバサン。自分のマンコやケツに塗られるとわかっていて、
こんなことさせられる気分ってどんなもん? 聞かせてよ」
 にやにやと意地悪く少女が笑う。
 普段の由紀子なら”オバサン”呼ばわりされただけで、頭に血を昇らせているだろう。
が、今はなにを言われても耐えて、やり過ごすしかなかった。
これ以上、少女たちを刺激するとどんな目に遭わされるか、わかったものではないのだ。
「あの……みなさまのお仲間に暴言を吐いてしまったので……し、しかたのないことだと――」
 消え入りそうな声で由紀子は答えた。
「ふーん。ちゃんと反省してんだー。偉いねー。でもさー、オバサン。
あんたいい歳してウチらみたいなガキにマッパに剥かれてマン毛まで抜かれてさー、
いろいろと痛い思いやみじめな思いしてさー、今度はとろろ汁塗られていじめられるんだよ。わかってんの、ねえー」
 全裸で正座している由紀子の頭を、少女が小馬鹿にして小突いた。
「……わ、わたしが……悪かったので……あの――」
「あっ、そう。じゃあさ、自分でマンコに塗ってくれるー? 痒くなりそうだからウチら、触りたくないんだよねー。ケツにもだよ」
「……はい」
くすくすと、少女たちが笑う。みじめだねー、と声が飛んだ。
 液体というよりも固体に近いのでは。そう思えるほどドロリとしたとろろ汁を由紀子は2本の指ですくい、
正座の両膝をわずかに緩め、従順に股間へと持ってゆく。
「う、ああっ――」
 予想以上にひんやりとして、ぬるぬるしている異様な感触に声が漏れた。
覚悟はしていても惨めだった。
「ほらー。そんな、お上品にやってないで、ゴシゴシこすり付けんだよっ!」
「オバサンにすってもらったおかげでたくさんあんだから、遠慮なくどーぞー。あははっ」
 唇を噛んで耐えながら、無毛の性器にとろろ汁を塗り付ける由紀子の姿に、
少女たちは野次を飛ばして大笑いした。


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