霧裡爺さんの作品

電車9



(……もうダメ、ダメ、ダメ――)
 由紀子に我慢の限界が訪れていた。いや、とうに超えているのだ。
 酷使し続けたアナルの筋肉は麻痺したようになっていて、
どうすればそこに力を伝えることができるのか、わからなくなっている。
 終わりだと思った。正座して痺れきった足で歩きまわることができないように、
痺れているアナルで排泄を止めることはできない。精神力も役に立たない。
 それでも――。
 由紀子は最後の力を全身に込めた。目をつぶり、歯を喰い縛り、掌に爪を喰い込ませ、
ブーツの中の足の指を強く折り曲げ、肉体のあらゆる部分を締めることで、感覚のないアナルも共に動いてくれるのを願った。
 対照的に性器は憎らしいほど敏感になっている。
特に、振動するバイブの小枝で弄られ続けているクリトリスからは、身体の芯を蕩かすような甘美な刺激が送られ続けていた。
(フウッ! ……グッ! ……アッ、アッ――)
 それまで、深くうな垂れたままだった由紀子の顔が跳ね上がった。
汗の滲む裸身がピンと反り返り、硬直し、微妙に震えていた。
鳥肌までも立っている。
 何事か起こりそうな予感に、騒いでいた野次馬たちは静まり、固唾を呑んで注視している。
 あの少女たちだけが顔を見合わせ、吹き出しそうになっていた。
 束の間の静寂が辺りを包む。
 それを打ち破ったのは、突如現れた男の怒号だった。
「なにやってんだっ!」と、叫ぶような声が響く。
 由紀子の裸身が凍りつく。震えすら止まっていた。
 ゆっくりと首を左に曲げ、男を、若い駅員を見つめた。
 ホームからは野次馬が多すぎて近づけないと判断し、若い駅員は車両の中を走ってきたのだ。
 驚きに見開かれていた由紀子の目が、困ったように歪み、
新たな涙が一筋こぼれ落ちる。イヤイヤ――と、首が揺れる。
 湿っぽい破裂音が鳴った。それが連続してゆく。
 由紀子の肩に手をかけようとしていた駅員が視線を下げ、驚愕の表情を浮かべて後じさりした。
「クッセー! 漏らしてるよ、あの変態」
 あの少女たちが笑っていた。
 太っている少女が「ブリブリ、ブー」と、電車から降りるときに由紀子に囁いた擬音を繰り返している。
 信じられない光景に、野次馬たちがどよめく。悲鳴を上げる。
 とうとう由紀子は衆人環視の電車の中で、素っ裸で立たされたまま大便を漏らしていた。
 堰を切ったように噴出し続けるドロドロの便は、少女たちの思惑通り落下し、
床に置いてある由紀子のバッグの中に吸い込まれてゆく。
(イヤッ! イヤよー。見ないで――)
 わずかな開放感と引き換えに、強力な羞恥と屈辱が由紀子を襲った。
 汚辱にまみれた精神が一時的に麻痺し、その隙を突いて官能がドッ――と流れ込む。
(フムッ!)
 腰が甘く痺れ、まぶたの裏に星が瞬く。
(あああああ――)
 由紀子は昇りつめた。
 咥えさせられている下着に悦びの叫びを浴びせ、今までに経験のないほど深く激しいアクメに陥った。
 こらえていただけに解き放たれた愉悦は凄まじかった。
「見て、見て。あいつ、イッてるよ。ウンチしながら。あはははっ――」
「すっげえー。本物の変態だな」
 野次馬たちの揶揄と嘲笑に包まれながら、由紀子の腰がガクガクと揺れる。
揺れるほどに挿入されているバイブも揺れ、それがまたさらなる悦楽を発生させていた。
 そのとき――。
 目の前のホームに、由紀子の乗っている電車とは逆方向へ向かう電車が入ってきた。
互いの車両同士の間隔は、擦れそうなほどに接近している。
 ほぼ満員の乗客たちが異変に気づき、由紀子に驚きの目を向けてくる。
(ヒィーッ!)
 まるで見世物だった。
 移動観客席と化した電車は、次々と由紀子の前に新たな見物人を運んでくる。
 排泄は止まらない。
 老若男女のさまざまな種類の視線で、蜂の巣のようにされた裸身と精神は制御を失い、ただただ炎上してゆく。
 アクメもとまらない。
 由紀子は涙で滲む目で通り過ぎる見物人たちを見返し、そこに向けて狂ったように腰を振りたくった。
 何もかも捨て、快楽にだけすがりついた。すがりつこうとした。
 いっそ狂って――と、願う由紀子の耳に、あの少女たちの哄笑がいつまでもこだましていた。

(完)


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