マルティニークの子供さんの作品
心の壊れる音がきみにきこえるか 10
ジェリコ・ラズニャトビッチという男がいた。
ユーゴスラビアという、今は無き国家が崩壊する時、彼は自分の欲望のおもむくままにふるまった。
ユーゴスラビア連邦は7つの隣国、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、
1つの国家と言われるほど、複雑で入り組んだ国だった。
不平不満もあれば、時には喧嘩や暴動もあった。
しかし、1990年までは、平穏に2400万人の人々が暮らしていたのだ。
何が理由なのか、10年過ぎた今でもよくわかっていない。
ある時、それまで同じ国、同じ土地に住んでいた者たちが、銃を手に立ち上がり、殺し合いを始めたのだ。
ジェリコは、ケーキ屋を経営し、地元のサッカーチーム「レッドスター・ベオグラード」のファンクラブ会長を
勤め、芸能人の妻を持つ、精力的な男だった。
その彼が、「戦争」が始まると、ベオグラードの不良少年を集め武器を持たせ戦闘訓練を施して
「タイガー(虎)部隊」と名づけた。
彼らと共にクロアチアに乗り込んだ。
そして、クロアチア人を殺しまくったのだ。
続いてコソボでアルメニア人を虐殺し、とうとうボスニアでとんでもない事をやり始めた。
モスレム人の男を殺すのはいつもの事だが、女を見ると暴力で拉致し、
収容所と勝手に呼ぶ建物に監禁し、輪姦し、妊娠させる事を楽しんだのだ。
その行為は「民族浄化」と呼ばれた。
女は年齢を問わず下は7,8歳、上は50歳まで。しかも妊娠中の女は腹を裂き胎児を
取り出して捨てたと言う。
私が高校生の時、それまで特に問題がなかったように見えたクラスで、イジメが始まった。
ある時から添田みさきが話しかけても誰も返事をしなくなった。
何日かするとみさきは、学校では一言もしゃべらなくなった。
2週間後には泣きながら「何でもするからもうムシしないで」と、クラスの女の子に土下座した。
それからみさきは「イジメラレっ子」になった。
11に続く