マルティニークの子供さんの作品

心の壊れる音がきみにきこえるか 11


   (10の続き)

 添田みゆきはクラスで「パシリ」「オイ」「カネ」などと呼ばれイジメられていた。
本人も無視されるよりはマシだと思っていたのか、イジメる方もムチャな要求をしなかったせいか、
はたから見ていて目をそむけるような悲惨なことはなかった。
 金を取られるといっても、せいぜい缶ジュースや菓子パン程度で、イジメられていない時には
6,7人ほどのイジメッコグループに混じって笑っている事もあった。
 私を含めてイジメに関わっていないクラスの大半の生徒なんとなくその状況を受け入れていた。
時には、イジメグループが添田みゆきに珍芸をさせるのを見物したり、
何か粗相があったとデコピンされているのを笑ってはやしたてたりした。
 その時のクラスメイトの心の中はどうだったのだろうか? 自分がその時何を思っていたか、
思い出せないのだ。 と言う事は、特別な感情は無かったのだろう。
 事態がエスカレートしていることに気がつくのは、取り返しがつかなくなってからだった。
ある日、クラスの男子6人が警察に補導されたのだ。
彼らは放課後、学校や公園などで添田みゆきを集団で暴行していたという。

 あれから6年がすぎて、私は大学の卒論のテーマに「旧ユーゴスラビア内戦におけるヨーロッパの
政治力学」を選んだ。そして、かつてユーゴスラビアで起こった内戦で人々が
、それまで平和に暮らしてきたのに、「何かのきっかけ」で殺しあうことになったという状況を、
自分の高校時代に重ねていた。
 あれは何だったのだろう? おそらくは「何も特別なことなどおこってはいない」という事なかれ主義、
あるいは「自分たちは別段恐ろしい事などしてはいない」という願望、そして、、、
「ヒトをイジメたい、でもそれはたいした事ない、普通のことなんだ」という、、、
人間の心の中にある、暗い衝動、だったのかもしれない。
 クラスに渦巻いた、無責任で暗い衝動を、添田みゆきはそのカラダで受け止めさせられたのだ。
 あの時におこったことをどうしたら辞めさせられたのか、そもそも辞めさせられることができたのか、
大人になった今でも、私は答えを見つけることができない。

 私が高校生の時、それまで特に問題がなかったように見えたクラスで、イジメが始まった。
ある時から添田みさきが話しかけても誰も返事をしなくなった。
何日かするとみさきは、学校では一言もしゃべらなくなった。
2週間後には泣きながら「何でもするからもうムシしないで」と、クラスの女の子に土下座した。
 それからみさきは「イジメラレっ子」になった。

 

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