マルティニークの子供さんの作品
心の壊れる音がきみにきこえるか 2
「そうそう、今から来んのよ、この部屋に。そう」
「呼んであんだって。イヤ、来るね。ホント」
「うん、うん、ありゃ、むかしイジメられてたね。間違いねえよ」
オレはケータイに話しかけながら、タバコをさがした。
そして(そうだ、あの女と付き合いはじめてから禁煙したんだ)と思い出し、舌打ちした。
「いや、なんでもねえ。うん。そう、オドオドしてるし。何人かでメシ食いに行っても、
顔上げないし、しゃべんないし。典型的だよ」
「ひひひひひ、バーカ、オレは優しいだろ。うん、里奈子っつって、営業先のバイトの、、、。
さあ、25くらいかな、わかんね。年なんかどうでもいいもん」
「え〜〜、お前も言うねえ。中学ん時?、ああ、あれな、イジメ?ふざけんなよ、遊んでやってたんだろ。 友達いねえあいつとさ。かってに自殺しちゃったんじゃん」
オレが中学の時、クラスにイジメられっ子がいた。
遠藤、、、なんていったか、名前なんて覚えてないけど、今なら事件になるような、
ちょっとキツイことだったろう。
荒れてる中学で、何個か下の学年から逮捕者もでた。
遠藤は、チビでデブの女で、女子にも男子にもイジメられてた。
朝、教室に入ってくるとカバンを取り上げられ、蹴られ、パンツ一丁にされ、
豚のモノマネなんかさせられてた。
それでも、泣きそうになりながら決して泣かず、笑ってるように見えなくもない歪んだ顔で
イジメてる同級生を見上げてた。
エスカレートしたイジメは、結局輪姦された遠藤が自殺して、終わった。
「オレ?オレは知らねーよ。まあ、ヤッタけどさ、オモシロそーだからつきあっただけさ」
「いいよ、もうその話は。これから来んだぜ、遠藤に似た目をした、女がさ」
「いいよ、、、、、ああいうイジメられるタイプはさ、そう里奈子、自分は何にも悪くありません。
理由もなくイジメられたんですって言いたいんだよ」
「悪いのはイジメるほうだから、あたしはキレイですって」
「だからさ、味方だって思わせれば、イチコロよ、コロッよ」
「むかししつけられてた女はさ、うん、もう1度しつけなおせば、なんでも言うこと聞くしな。
、、、いいよ、ヤラせてやるよ。ああ、きっちり、やってやるぜ」
「そろそろだ、うん、明日な。じゃあ」
ケータイをきり、あらためて部屋を見回す。
里奈子は半分警戒心を解いているが、まだ完全じゃない。
ヤバイものがだしっぱなしになっていないか、確認した。
里奈子にしろ、遠藤にしろ、自分独りじゃどうにもなんねえ人間なんだろう。
ホントは誰かにかまってほしくてたまらないんだ。
ハンパなやつってのは、なんで他人に頼りたがるんだろう?オレにはわかんない。
まあアタマ悪ぃってことなんだろうな。
もう、あの女は、オレを頼ってる。
最初だって誘ってやれば、おどおどしながらも、強く拒否しない。行こうと誘えば、ついてくる。
今夜この部屋に来れば、もう、決まりだ。
あとは、オレがあいつのトラウマを、受け入れてやると、信じ込ませればいい。
そうすりゃ、また、もとのイジメられっ子に逆戻りだ。なんでも言う事をきくようになる。
今日は優しくしてやる。
でも、ちょっとでも逆らったら思い知らせてやるんだ!カラダに刻み込まれた、他人に、
暴力に依存する、イジメられっ子の本能を!
ケータイがなった。里奈子からだ。
「もしもし、うん、駐車場?うん、待ってたよ。今夜は大切な話があるんだ。」
「迎えに行こうか?大丈夫?、そう、じゃあ、待ってるね」