マルティニークの子供さんの作品

心の壊れる音がきみにきこえるか 6


 (5の続き)

 夏休み明けに学校に行くと、担任の先生が能面のような顔で「報告がある」と言った。
 「クラスメイトの遠藤志津子くんが、8月30日の夜、自宅近くのマンションの屋上から落ちて亡くなりました。ご両親の希望でお葬式は故郷の福島の方で行うそうです」
 先生が言わなくても、誰もが「自殺」だと理解できた。
 私は、イジメっ子たちの、「フ〜ン」という息遣いを聞いた。そこには、なんの感情もこもっていなかった。
それとも知っていたのだろうか?志津子の死を。

 やはりウワサはウワサを呼び、あらゆる憶測が流れた。
 「100人の男子に輪姦された」
 「好きな男子の前で犯された」
 「ケーサツに行ったらケーサツ官に犯された」
 「家族に絶対見られてはいけない写真を見られた」
 「いや、自殺じゃない、突き落とされた」
 「小学生の弟とのSEXを強制された」
 いろいろな理由がささやかれ、だから志津子は自殺したのだと、さも本当のように広まった。
 イジメっ子たちは何も言わなかったし、誰も直接尋ねなかった。

 その日の下校の途中で、しのぶのいった言葉が私の心をかき乱した。
 「遠藤さんの、泣いた顔、結局1度も見なかったわね」
 「な、、、なにそれ?」
 「何をされても、彼女、涙を流したこと、なかったんじゃないかって、今思ったの」
 「そんなわけないでしょ、イジメっ子たちの前では泣けなかったんじゃない。
いつもいつも泣いてたに決まってるわ」
 「そうかもね。でも、違うかもしれない」
 「ねえ、しのぶ。何が言いたいのかわかんないけど、せめて私たちだけでも遠藤さんが
天国に行ける様にお祈りしましょうよ」
 「天国なんて、、、そんなところはないわ。遠藤さんはね、カラダは濡れることで傷つかないように
する事を知っていたけど、こころは壊れないようにするやり方がわからなかったのよ」
 「もうやめて!クラスメイトが自殺したのよ!そんなに冷静でいないで!」
 「、、、、、、」
 それから、しのぶとの間に壁ができたようで、以前ほど本音を言い合うことはなくなってしまった。

 教室に流れる、不穏な空気は時間がたつにつれて、重いものになっていった。
例のイジメっ子4人が、新たなる生け贄を求めているのが感じられたからだ。
 たまに男子が「ゲーセン行こうよ」などと近寄っても、女子が「今週のアンアン見た?」と
雑誌を差し出しても、イジメっ子たちは見下すように相手を見て、どっちつかずの生返事をするだけだった。

 
 私は、自分がやった事を正当化する気はない。自殺してしのぶに謝罪するべきだ!と思ったこともある。
しかし、当時の私は心底「クラスの他の誰より、しのぶが生け贄になってみればいいんだ。
遠藤さんの事を他人事のように冷静に話していた彼女自身が」 
 実は心のどこかで「しのぶがあのひどい性的イジメを観察し、研究し、一種の実験として
見ていたのではないか?」と思っていたのだ。
 それは遠藤さんに対してひどく冷たい、もっと彼女に同情してもいいはずだ、この私みたいに、、。
当たり前だが、それは自己中心的であり、むしろ私のほうが、イジメラレっ子に同情する
優しい女だと自己陶酔する、下衆な人間だった。

                           続く

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