マルティニークの子供さんの作品

心の壊れる音がきみにきこえるか 7

 (6の続き)

 9月の下旬、私はしのぶが体育祭実行委員会でいない時を狙って、教室でクラスの女子に話しかけた。
近くにいる工藤百合にわざと聞こえるように。
 「しのぶが遠藤さんの親に会いに行ったって知ってる?変だよねえ」
 話しかけられた方は百合のことに気づかず 「フーン、あの人面倒見、良いわけじゃないよね。
内申書のためにセンセにごますってんのかな?」
 私のウソを信じた彼女は、もともとしのぶの事を良く思っていない女の子だった。
成績は良いが口数少なく、キツイ感じのするしのぶはクラスでも好かれていない。
 その時はそれだけだった。
別の日には、ワープロで打った「構内の風紀に関して教師に注意してほしいこと」という
タイトルの紙をわざと斎賀和幸の机の近くにまるめて置いておいた。
紙の一番下に「高瀬しのぶ」と署名いれて。
 
 
 「それ」は体育祭前日に実現した。リハーサルで誰もいない教室に、工藤百合と浦沢優子に
呼び出されたしのぶは、クラスのイジメラレっ子になった。
 

 朝、教室にしのぶが入ってくると、男子も女子もニヤニヤと笑いあう。
 無表情のしのぶはかばんを置くと、真辺健一郎の前に行き自分で制服を脱ぐ。
 「今日も皆さんの奴隷、キチガイおんなをたくさんイジメてください」 そう言って土下座する。
 「お〜い、今日は誰の番だ、早くしないとおれがヤッちゃうよ」
 しのぶは、志津子よりもひどい扱われ方をしていた。
少なくとも志津子はみんなの前で犯されてはいなかったが、しのぶは朝から何人もの男子にSEXされ、
男子の性器をしゃぶらされ、精液を飲まされ、舌で女子の足や机の汚れ、窓ガラスを舐めさせられた。
 授業中でも性器に異物を入れられ、排泄を強要され、テストでわざと低い点を取らされ、
とにかく、思いつくありとあらゆるイジメを受けていた。

 私は、それを見ていた。同情して、、、。可哀想なしのぶ。あんなひどいことをされて、私は許せない。  
思っているだけで、志津子の時と同じで、何もしなかった。


 今でも、体育祭前日にしのぶの身に何があったか、どうしてたった1日であんなに聡明な彼女が、
奴隷にされてしまったのか、わからない。
 考えられるのはただ一つ、「暴力」だ。彼女自身が、そう言っていたのを思い出す。
 結局のところ、しのぶはこころが壊れないようにするやり方を知っていた。
「暴力からの逃亡」だ。
12月24日の終業式が終わり、そのまま男子にも女子にも集団リンチを受け腫れ上がった
カラダを引きずって帰ったしのぶは、その後家出を繰り返し、学校に来なくなった。
 

 私は中学3年の2学期に親の都合で東京に転校し、しのぶがどうなったか、まったく知らない。
知りたくもなかった。
 就職した会社で、今の恋人に出会い、このままいけば結婚することになりそうだ。
 彼の持っていたエロ雑誌の中の「しのぶ」は、SM調教をうけていて、まるでイジメられていた
中学時代と変わらないかのようだ。
 私を恨んでいるだろうか?それとも、まだ気づいていないだろうか?
 

 「ねえ、潤一。私が好き?」 自分の汚さに耐えなれなくなると、私は彼に聞く。
 「ああ、」 彼は照れたように、応えてくれる。
 「ちゃんと、言って」
 「好きだよ」
 「私がどんなにひどい、汚い、裏切り者でも、私を好きだと言って」
 「お前が、どんなにひどい女でも、汚い裏切り者でも、おれはお前が好きだよ」


 潤一が、どういうつもりで言ってくれているのか、わからない。
 でも、うそでも、潤一の言葉が私のこころを癒してくれる。
 いつか、私は天罰を受けるかもしれない。親友を裏切って、地獄に落とした女として。
 
 しのぶなら、こう言うかもしれない。
 「地獄なんて、そんなところはないわ」

 しのぶは今、どこにいるのだろう。  

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