ゾロさんの作品

班長には逆らえない


<7>

 福村さん、会社に有給休暇の申請をしたみたいです。
それも、残りの日数全部。
 本当に、佑子さんが言ったように、もう来ないのでしょうか。
 福村さんは、休暇願いを直属の上司の佑子さんを頭越しに部長の加藤真知子さんに出したみたいなんです。
 佑子さん、加藤部長からそのこと知らされて朝からご機嫌ななめなんです。
「佑子さん、コーヒーです」
「ありがと……美佳、郁子と連絡取ってる?」
「い、いえ、あれから連絡取ってません……」
「そう……辞めるのは勝手だけど、私に挨拶ないなんて、態度悪いわよねぇ。」
「……」
「郁子に会ったら、ちゃんと筋は通せって言っといて」
「はい……連絡取ってみます」



 退社後、福村さんの方から連絡がありました。
 いつも行ってた居酒屋で落ちあうことにしました。
 居酒屋に行くと、福村さんは、カウンター席にいました。
「福村さん、もう来てたんですか」
「ああ、美佳、ごめんね」
 福村さん、顔色が冴えません。
「いえ、それより、会社どうするんですか?」
「うん……」
「辞めるんですか?」
「うん……小娘にあごで使われるなんてまっぴらよ」
「……」
 私は、すっかりあごで使われてるんですけど……
「辞めてやるわよ。あんな会社」
「そんな、あわてて決めなくても……うちの会社みたいに待遇のいい会社ってないですよ」
「でも、耐えられないよ」
「気持ちは、わかる気がしますけど……」
「美佳は、よく平気だねえ」
「え、平気ってことないけど、我慢してますよ……」
「へえ、そうかなあ……美佳、佑子に媚売ってんでしょ」
「ち、違いますよ……」
 本当は、媚を売るなんてもんじゃないんですけど、福村さんには、言えないです。
 完全に佑子さんの奴隷に成り下がってることなんて、福村さんには、言えないです。
「ま、いいけど、私は、会社辞めるよ、絶対……」
「専務に相談して、部を替えてもらえばいいじゃないですか」
「だめよ。会社にいる限り、佑子が上司だもん」
「そうですよね……」
 プライドの高い福村さんには、私みたいな卑屈な態度は取れないですよね……
「ふぅ〜〜〜っ」
 大きなため息をついた福村さんは、残りのグレープフルーツサワーを一気に飲み干しました。
「帰ろっか。もともと美佳に相談しても、どうしようもないことだし……」
「はい……」
 確かに、私に相談しても、し様がないです……
「転職先、決まったら連絡するよ」
 居酒屋を出て、駅への道をとぼとぼと歩きながら、福村さんは、寂しそうに言いました。
「はい、福村さん、頑張ってくださいね」
「ありがと……」


「あら、美佳じゃないの。郁子も一緒?」
「あ……」
 最悪です。駅のロータリーの歩道で、よりによって佑子さんに出くわしてしまいました。
「郁子、急にお休み取ったりしてどうしたの?」
「……」
「黙ってちゃあ、わかんないわ。みんな忙しく働いてるのに仕事ほっぽり出して飲み歩いてるわけ?」
「ち、ちがうわよ!」
「なに、その口のきき方」
「あなたこそ何よ。年下のくせに生意気よ」
 郁子さん、言いすぎです……
「ははは……郁子は、年下の上司に使われるのがくやしくて会社に来られなくなっちゃったのね?」
「ちがうわよ!あなたみたいなちゃらちゃらした人と一緒に仕事したくないだけよ。
それに、人のこと呼び捨てにするのやめてくれない?」
「そうなの?じゃあ、好きにすれば?誰も止めないわよ」
「好きにするわよ!」
 福村さん、完全に切れちゃってます。もう、取り返しがつきません……
「負け犬は、尻尾巻いて帰りなさい」
「何よ、その言い草は!」
 あ、だめです!
 ああ、福村さん、佑子さんを突き飛ばして、改札の方に行ってしまいました。
「いった〜い」
 私は、尻餅をついてしまった佑子さんを助け起こしました。
「佑子さん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
 なぜか佑子さん、薄笑いです。
「私、福村さんが心配なんで……」
「ほっときなさいよ」
 私、福村さんを追いかけようとしたんですけど、佑子さんに止められました。
「でも……」
「美佳は、会社を辞めて行く人間と上司のどっちに付くの?」
「それは……」
「ま、それはいいとして、郁子は、そのうち泣きついてくるわよ」
「え?」
「ふふ、簡単には、許さないけどね……」
 また、佑子さんの予言です。私は、半信半疑で聞いてました。



 翌日、朝礼で途中採用の新人が紹介されました。
「今日から、みなさんと一緒に働いてもらうことになりました、中川由香里さん(21)です。
みなさん、よろしくお願いしますね。では、中川さん、ご挨拶お願いします。」
「えっとぉ、中川由香里です。よろしくおねがいしま〜す。」
 ぺこりとお辞儀して、目をくりくり動かしてみんなを見回しています。かなりのぶりっこです。
「言い忘れましたが、配属は北部3班です。坂井班長、よろしくお願いしますよ」
「はい」
 佑子さん、不敵な笑みを浮かべています。
 どういう意味の笑みなのか、私にはわかりません。
 由香里ちゃん、要領がいいのか、意外と仕事ができます。班長の佑子さんのこと、
年下だってこと知ってか知らずか従順に見習いとして雑用をこなしています。
 佑子さんも由香里ちゃんのこと気に入ったみたいで、スカートの丈をうんと短くさせて顧客回りに連れまわしています。
 由香里ちゃん、客受けはかなりいいようです。
 私は、小夜子さんと組まされることが多くなり、佑子さんは由香里ちゃんに掛かりっきりで、少し寂しい気もします。



 最近、佑子さんによる改革が進んでいます。
 年功序列の、なあなあのスタイルを打破して、責任や仕事量に応じて待遇や地位を臨機応変にする、
実力主義のスタイルを築く試みが行われています。
 元班長の小夜子さんも、お子さんのこともありパートタイマーのような勤務になってきて、
成績も私より下になってきました。
 佑子さんは、元班長の小夜子さんを私のアシスタントに任命したのです。
 佑子さんの命令で上下関係を明確にするため、小夜子さんは、私に敬語をつかわないといけないのです。
 私は、今更小夜子さんを呼び捨てにしたり、命令したりするのが辛いんです。
 でも、佑子さんに叱られるので、佑子さんの前では、「小夜子、早くしなさい」とか言ってますけど、しっくりきません。

 一週間もすると、由香里ちゃん、単独で客先と取引が出来るようになりました。
 佑子さんには、ぺこぺこしてますが、私たちには対等に口をきくようになりました。
 由香里ちゃんの順応力はずごいって感心してたところに、福村さんから連絡が入りました。
 福村さん、かなり落ち込んでいます。
 同業他社のには、ことごとく断わられたみたいです。
 それも、面接も受けられない門前払い同然だったみたいです。
 証拠はありませんが、佑子さんの妨害があったみたいなのです。
 福村さん、元彼の保証人になってるし、一番高い時期に買ったマンションの返済も大変みたいなんです。
 今、売れたとしても、月々の返済金額はあまり変わらないみたいで、今の会社と同等の
給料がないと生活できないんだそうです。
「どうしよう……私、もうだめだよ……」
「福村さん、落着いて。社長に相談して、戻ってきてくださいよ」
「……」
「有給、もうすぐ切れるんでしょ?」
「もう、だめだよ……」
「福村さん、まだ辞めるって辞表出したわけじゃないんだし、休んだこと社長に謝って、復職してくださいよ」
「……ああ、私って最低……ありがと、連絡してみる……」
「頑張ってくださいね」
「うん……」
 福村さん、ピンチです。
 でも、社長は物分かりいいし、きっと許してもらえるはずです。



 朝礼が終わって、ざわざわと、みんな外回りの準備や書類の整理を始めたところに、福村さんが久しぶりに
出社してきました。
 うつむいて、ばつが悪そうな感じの福村さんは、私たちには視線を合わせずに2階に上がって行きました。
 佑子さんは、福村さんのことなんか眼中にないみたいに、私たちにてきぱきと指示を出しています。
 福村さんと、また前みたいに一緒に仕事したいです。


 しばらくすると、内線で佑子さんが呼ばれました。
『はい、わかりました。すぐに参ります』
「由香里も来て」
 佑子さん、由香里ちゃんを連れて2階へ上がって行きました。
 なんで、由香里ちゃんが呼ばれたのか不思議です。
 福村さんのこと心配なんですが、仕事しなくちゃいけません。
 小夜子さんに指示をしたり、印刷所に確認を取ったり忙しく働いていると、福村さん達が2階から下りてきました。
 あれから、1時間以上経ってました。
 佑子さんがいつもの感じで歩いているすぐ後ろで、由香里ちゃんがご機嫌な様子です。
 少し離れて福村さんがとぼとぼと歩いて戻って来ました。
 あれ?福村さんの目が泣きはらしたみたいになってます。
 佑子さんにいじめられたのでしょうか?気になります。

「郁子、挨拶しなさい」
 佑子さんが福村さんに言いました。
「はい…、木村さん、正木さん、勝手に仕事休んですみませんでした。
見習いとしてやり直すことになりましたのでよろしくお願いします」
「見習いって……」
 私、思わず聞いてしまいました。
「当然でしょ?社会常識から勉強し直してもらわなきゃいけないわ、郁子には」
「……」
「とりあえず、しばらく郁子は、由香里のアシスタントをやってもらうから、みなさ
んよ
ろしくね」
 え?ひどいです。福村さんを新人のアシスタントにするなんて……
「それに、郁子はうちの班で一番下っ端だからね。雑用は、率先してやるように。
美佳にも敬語つかいなさいよ」
「え?困ります!福村さんにそんなこと……」
 先輩の福村さんとは、同い年だけど主従関係ができていて今までうまく行ってるのに、
今更逆転するのは困ります。
「美佳には、聞いてないわよ!黙ってなさい!」
「はい」
 佑子さんに一喝されて首をすくめてしまいました。年下だけど、後輩だけど上司です。
「郁子、わかったの?」
「……わ、わかりました……」
「じゃあ、美佳に改めて挨拶なさい」
「え…えっと…」
「『見習いの郁子です。正木さん、よろしくお願いいたします』って言えばいいのよ。
ついでに、『今度から、郁子って呼び捨てにしてください』ってのはどう?」
 福村さん、噛んだ下唇が真っ白です。
「み、見習いの郁子です……正木…さ…ん……よろしくお願い…します……」
「福村さん……」
 福村さん、そんな言い方しないでよ……


つづく

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