どらごんさんの作品

性奴系図外伝(藤田浩二篇)(改定判)


第4章  逡巡



次の日は日曜日であった。
自室のアパートで、悟は朝から珍しく布団の中でぼーっとしていた。
休日は通常、仕事関係の勉強をするのが常であったが、前日の慶蔵邸での出来事があまりにも衝撃的で、
夕方になっても何もする気が起きなかったのだ。

「川上さん、宅急便です」
悟はパッケージを受け取る。
差出人は山野家家政婦の宮本明美からであった。
中身はビデオテープである。明美の連絡先も同封されていた。
中身を見るのが恐ろしい。
悟は圭子をいたぶるときの明美の嗜虐性に満ちた笑いを思い返しながら、
見るべきかどうか何度も心の中で反芻した。
思い切ってテープをビデオデッキに押し込む。
映像が現れた。
中身はやはり山野家での圭子が受けてきた調教の記録であった。
圭子が山野家での初日に受けた浣腸に始まり、牝奴隷志乃とのレズショー、
公開オナニー、いろんな淫芸の訓練シーンが非常に分かりやすく編集されていた。
まるでSMの初心者をSMの世界へとうまく導くように作成されたビデオの内容に、
編集をしたのは瑠美かもしれないなという気がした。
昨日、交尾ショーの後で瑠美が熱く語ったSM論がまだ頭に残っていた。

テープを見終わった悟は心の小さな波紋が大きなうねりとなっていくのを感じた。
以前は見過ごしていた感情が徐々に湧きあがってくるのを感じた。
悟は昨日の出来事がまだ夢のような気がしていた。
慶蔵邸で目撃したことをひとつひとつ思い返してみたが、
あの清楚で上品だった圭子があそこまで牝奴隷になりきっているとは思いがけないことであった。
慶蔵の性奴隷を飼うという行為は道徳的、法律的には糾弾されるべきかもしれない。
ただ、あまりにも衝撃的であり、刺激的でもあった。
悟は自分のモノが勃起していることを感じ、恥ずかしく思った。
とても硬く屹立してきている。悟はズボンの前ボタンとジッパーを外した。
そのとき、アパートの電話が鳴った。
瑠美からであった。



調教部屋の檻の中で圭子は落ち込んでいた。
悟の前で牝犬として扱われ、様々な淫芸を披露させられ、
そして一郎との公開セックスまで強制されたのである。
セックスの後で圭子が疲れきって臥していたとき、視線の先に瑠美が悟をこれ見よがしに家の方へ
連れて行くのが見えた。
瑠美と悟は何を話していたのであろうか。
はっきりと言えることは、自分の恥ずかしい姿を見られた以上、
悟はもう自分のことなど軽蔑してしまっているだろうということである。
悟と初めて結ばれた夜に悟が言ってくれた言葉を脳裏に反芻してみる。
悟がどこまで心変わりをしたのかどうか気になる。
ただ、自分は獣でもしないような恥ずかしい姿を悟にたっぷりと見られてしまっている。
なんというあさましい姿を自分はしていたのか。
その想いが圭子を苦しめた。
運命を呪いたくなる。
圭子はつらそうに鉄格子を思い切り叩き、涙を流した。



「部長、何か心配事があったら、私に言ってくださいね」
ぼんやり書類を見ていた悟に、総務部員の中井鶴代が話しかけた。
いつもは穏やかな表情をしててきぱきと事務処理をする悟が書類を見て硬い表情をしている。
しかも、視線が一点に固まり、業務に集中していないのが明らかであった。
元々は先輩格の社員であった鶴代は、悟の変化に敏感であった。
悟に何かが起こっているのか。
「いや、大丈夫ですよ、中井さん」
悟は立ち上がって、コーヒーを取りに行った。
コーヒーを飲みながらも、様々なことが頭をよぎる。
しばらくは仕事に集中できそうになかった。 
「すみません、ちょっと山野物産に書類を届けに行ってきます」
悟は立ち上がった。
「部長、そういう雑用でしたら、私がしますよ」
鶴代が言ったが、悟は「いや、いいです」と言ってそのまま出て行った。
外出することで気分転換でもしたかったのであろうか。
その後姿を鶴代は心配そうに見守った。
自分より数歳年下の悟が入社したときは本当に頼りない感じではあった。
影でこつこつ努力するタイプであった。
悟が社長の運転手をしていたときも、文句一つ言わずに業務をこなしていていた。
女子社員の中には、地味な悟のことを小馬鹿にする者もいたが、
鶴代はひそかに悟のことをすごいと思っていたのである。



山野物産での用事を簡単に済ませた悟は、公園のブランコにいた。
「ああ、俺はどうすればいいんだ」
すでに、圭子をコンパニオンとして山野建設の宴会で使うことは既定路線として、
浩二によって決められてしまっていた。
自分は宴会を仕切る総務部の部長として、圭子にさせる淫芸の題目を考えなければいけなかったのである。
かつての社長夫人、いや自分を初めて愛してくれた人にあのような淫らな芸を宴会で
させなければならないのか。
週末の山野家での出来事が走馬灯のように頭を廻った。
明美から送られたビデオの映像が甦る。そして、瑠美の妖しい声も。
自分の股間が硬くなっていくのを感じた。
自分は圭子をさらし者にしたくないとは思っていても、
それを見て歓んでいる自分もどこかにいるのかもしれない。
悟はそれを認めたくはなかった。
「こうなったらもう逃げるしかないかな」
悟はふと自暴自棄になって何もかも捨てて田舎に戻ろうという考えがよぎったが、
現実的ではないと思い直した。
頭が混乱しながらも、悟はよろよろとブランコから立ち上がった。



社長室で浩二は会議を開いていた。
旧藤川建設は、山野建設として再生してからというもの、山野グループの全面的バックアップを受けていた。
そのおかげで、業績が急速に上がり、業容が急拡大してきている。
このままの勢いでいくと数年以内の株式上場も見えてくるかもしれない。
それとともに、社長としての忙しさも増していた。
確かに藤川建設の創業者である圭子の夫は行動力に優れ、
自らのリーダーシップである程度までは大きくすることに成功した。
しかし、かつて大手建設会社で管理職をしていた浩二からすれば、経営的にはまだまだ甘いところが多かった。
浩二は十年くらい前に課長待遇として転職してきたのであるが、
事務処理能力に優れている浩二はたちまち副社長まで出世した。
もちろん自分の能力を認めて引き上げてくれた圭子の夫に対する感謝の念はある。
ただ、圭子の夫は創業社長にありがちな独善性も併せて有していた。
会社がある程度成長すると、次には内部固めが必須となる。
会社が小さいときにはがむしゃらな営業活動をかければよかったであろう。
だが、ある程度の規模になると、人数も増えてきて取引も高度になっていくので、
営業も効率よく行う必要があった。
また、人材の適性配置も重要であり、えこひいきで人事を行うことは控えるべきであった。
浩二はその必要性を会社幹部として折に触れて、社長には具申していた。
「そんなこと言い出したら、営業も萎縮するし、社員みんなが怒っちゃうよ。
藤田さん、うちにはうちのやりかたがあるんだからね」
社長が遠くまで響く大きな声で浩二の提案を否定すると、浩二は叱責されたかのように
萎縮してしまうのであった。
浩二は社長に中々受け入れられないという愚痴を言いたかったのであるが、
当時の総務部長が完全に社長の子分と化していたので、告げ口を恐れてうかつなことは言えなかった。
そして山野建設となり、社長に就任した浩二は今まで雌伏していた日々を跳ね返すかのように、
精力的に国内外を問わず活動を進めていた。
社長になると、浩二は悟のような能力のある社員を次々に取り立て、
能力のないと思われる幹部は次々に降格または閑職へと追いやった。
古参社員の中には、浩二の爬虫類顔を冷笑し、「今の社長は血も涙もない」と言う者も多かった。
ただ、まだまだ少ないながらも浩二の社長登板により初めて日の目を見た悟のような
社員は浩二を尊敬しているのであった。
忙しい会議の最中、浩二はふと先日の山野邸での淫靡なショーを思い出し、
股間を硬くし、ごまかすかのように椅子を座りなおした。
「藤川建設時代のものはすべて壊さなきゃいけないな。そうしてこそ会社は新しく生まれ変われるんだ」
浩二はふとかつては前社長の写真が飾ってあり、今はがらんと空いている壁の面に目をやって思った。



「どうだろう、川上君。君にとっても悪い話ではないと思うんだけどね」
酒を勧めながら、慶蔵が悟の目を覗きこんで言う。
「ええ、まあ」
きちんと正座して杯を受けながら、慶蔵の強烈な視線に戸惑ったのか、悟はあいまいな返事を返した。
慶蔵は悟を料亭に呼び出していた。
悟に結婚を勧めるためである。
そして、悟の結婚相手として勧めていたのは、慶蔵の秘書でもある知香であった。
「倉沢さんはかなりの美人だぞ。年齢も確か君と同じか、一つか二つ上だったかな」
慶蔵は美しい女子社員として山野グループ内で評判だった倉沢知香を
自らの秘書にすると同時に愛人にもしていたが、
1年ほども付き合ってそろそろ飽きが来ていたのである。
それに、近頃は知香が愛人面をして、慶蔵に対してもいろいろなお願いをしてきているのも、
鼻につき始めていた。
知香の父は山野グループ傘下企業の役員をしており、また知香は性格的にも性奴隷には向いていなかった。
知香を持て余し、なんとかしたいと思っている矢先に悟が現れたのであった。
悟が婚約したら、悟を憎からず想っている圭子にも大きな打撃を与えるであろう。
慶蔵は圭子をとことんまで陵辱する気でいる。
「山野会長。ただ、倉沢さんは私には興味がないように思えたのですが」
知香とは慶蔵のパーティーで面識があったとはいえ、ほとんど会話もしていなかったせいか、
悟は自信なさげである。
慶蔵は鷹揚に笑った。
「大丈夫だよ。倉沢さんも君とだったらいいと言っている」
慶蔵は悟にこの話しを持っていく前に知香を個別に呼んでいた。
慶蔵が予期していなかったことに、知香はあっさりと承諾した。
すでに三十路に達した知香も年貢の納め時と考えていたのかもしれなかった。
悟は参加企業とはいえ総務部長であり、縁談としても悪いはずがなかった。
ただ、慶蔵の目の前の悟は逡巡している様子である。
「この話しはもう少し考えさせてくれませんか」
「いいよ。君も親とも相談しなければいけないだろうし、まだ他に好きな人がいるのかもしれないし」
と言って、慶蔵は悟の目を見て笑った。
「ところで、今日は倉沢さんも呼んでいるんだ。僕はもうこれで失礼するから、
二人でいろいろな話しでもしてみたまえ」
慶蔵はとまどいを見せる悟に向かってにこりと笑った。


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