どらごんさんの作品

性奴系図外伝(佐藤敬吾篇)

第17章  謎の男


広島支店開設パーティーの出席名簿で、謎に包まれた慶蔵の闇社会での交友関係がはっきりとしてきた。
慎重な調査の結果、案の定、暴力団関係者がぞろぞろいた。
そこから地道に慶蔵を逮捕に持っていけるだけの容疑を固めることになるのである。
圭子が数日前に載せられたという貨物船についても調べが及んだ。
ただ、不思議なことに該当の貨物船が入出港したという記録がいっさい存在していなかったのである。
「まるで、幽霊船みたいじゃないか」
報告を聞いた出井は呻くように言った。
よほど何か大きな力が背後で働いているのであろうか。出井は薄気味悪さを感じた。
捜査は悟の証言に伴い慎重に裏付けを取っていった。
慶次が捜査に協力したのも大きかった。
すでに市長として7年以上のキャリアがあり、政府与党とパイプのある慶次がいることで
政治介入の可能性は低くなったと言ってよかった。
慶次は朝食を息子の邦治と一緒にとっていた。
邦治は浪人生である。
「どうだ、邦治。成績の方は」
慶次は聞きながら、自分も来年の今頃はどうなっているのだろうかと心の中で自嘲した。
今日は笹村を含めた政府与党の幹部と打ち合わせの予定である。
兄に対する捜査もだいぶ内偵が進んでいることであろう。
場合によっては自分も破滅するやもしれぬ。
だが、兄の行状は、いつかは知れ渡ることである。
座して待つことはさらに事態を悪化させるのみであった。
進んで火中の栗を拾うしかない。
与党幹部との打ち合わせは党本部を避けて、元首相の事務所で行われることとなった。
タクシーから降りた慶次は緊張した足取りで事務所に通じるエレベーターへと乗り込んだ。
「よおっ。慶次はん」
実力者の笹村が到着したばかりの慶次に声をかけた。
慶次は深々とお辞儀した。
打ち合わせには、笹村の他には、元首相に、与党幹事長が出席している。
笹村は最近、スキャンダルを週刊誌に書かれ、さらに慶蔵との関係が明るみに出ることには
神経を尖らせている。
「なんとか穏便に済ませられへんやろか」
笹村は慶蔵への捜査継続に逡巡している。
「いや、ここで政治が司法に介入することは我が党のイメージを決定的に悪くします」
慶次は反対した。選挙対策の責任者である幹事長も頷いている。
「私だって兄を守りたい気持ちが強いんです。ただ、社会正義の方を優先したい」
慶次は力強く言った。
「伝統ある山野家がどうなってもええんかい。もう仕舞いになるで」
笹村が意地悪く言った。
「そうなってもやむを得ないでしょう」
慶次は目をつむった。
元首相の事務所では白熱した議論が展開されていた。
横で聞いていた幹事長が元首相を見た。
元首相は腕組みをしたまましばらく黙考した。やがて、口を開いた。
「まあ、こういう時代だ。もう流れに任せるより他になかろう」
(親父と兄さんが大きくした山野家は立派に私が継いでみせますよ、兄さん)
慶次は慶蔵に心の中でつぶやいていた。
敬吾は慶蔵の意向で、暴力団の大幹部である津島四郎の事務所にやってきていた。
すでに時計は夜の10時を回っていた。
慶蔵も敬吾から、これから警察による内偵が行われている可能性があるということを聞いて、
しばらくは派手な動きを封印しようというのである。
敬吾は全身黒ずくめのスーツを着ていた。髪もオールバックにしている。
事革張りのソファーに座った敬吾の真正面に津島が座り、その周りを強面の男たちが
ガードするかのように取り囲んでいる。
津島の背後には巨大な掛け軸が目立っている。調度品もどこか毒々しい。
敬吾は津島を見据えて冷静な口調で言った。
「とにかく今は、例の『女』ビジネスの方はおとなしくしていて欲しい。
しばらくは死んだふりで頼みます。どうやら警察が動いているようだ」
それを聞いて津島の顔が怒りで真っ赤になった。
「てめえ、俺たちのシノギをつぶそうっていうんかい。
お前が慶蔵さんの関係者じゃなかったら、簀巻きにして海にでも放り込んでやるものを」
ものすごい形相である。
津島の事務所の稼ぎはその半分以上が「女」の売買から来ている。
いくら慶蔵の意向とはいえ、津島にはなかなか従うことができない。
「焦るな。焦ったら敵を助けることになる」
敬吾の言葉はいつも短い。そして的確である。
それがある種の威圧感を与えていた。
闇社会の住人であるはずの津島も敬吾の持つ迫力に逆らえないものを感じていた。
「まあ。そんなに言うんだったら、一応、気をつけるようにはするけどな」
「『一応』では困ります」
敬吾が津島を見据えながら言葉を一語ずつ区切るように話した。
敬吾が自室に帰り着いたときは午前1時を回っていた。
「うん?」
ベッドの上の掛け布団の中に誰かいる。
敬吾は背広の内ポケットに忍ばせた小型拳銃に手をやった。
おそるおそる布団を上げると瑠美であった。
「遅かったね、どこ行ってたのよ、佐藤さん」
瑠美は眠け眼をこすりながら、欠伸をした。
敬吾は瑠美の問いには答えず、
「お嬢様、いけません。誰かにこんなところを見られたらどうしますか。すぐお部屋にお戻り下さい」と
瑠美をやさしく咎めた。
「いいのよ。誰も見てないわよ。お父様もあの外人女を抱いていると思うし、何も気にすることはないわ」
「ですが、お嬢様。旦那様がお怒りになるのではないですか」
「そんなこと、どうでもいいわよ。お父様のことなど関係ないわ」
瑠美は両手を広げて敬吾に抱きつき、唇を押し付けてきた。
女子大生の甘酸っぱい香りが鼻腔を突き、敬吾の自制心が緩んだ。
敬吾も瑠美の唇を吸い、舌の絡み合いをした。瑠美の声が上気した。甘い吐息を吐く。
「佐藤さん、恥ずかしいわ。灯りを消してちょうだい」と瑠美がささやいた。
甘いひと時が終わった。
瑠美は、傍らで横たわっている敬吾の胸をやさしく撫でている。
「ねえねえ、佐藤さん。今から静江のところに行こうよ」
瑠美は敬吾の首を指でつんつんと突付いた。
「こんな時間にですか、お嬢様」
「そうよ」
瑠美は立ち上がって、下着を着けずにガウンを羽織った。
途中でリディアの部屋を通った。
奴隷部屋には鍵は付けられていない。
リディアは不在であった。
「あの外人、やっぱりお父様に抱かれているのね、今晩も」
瑠美はいまいましそうにリディアのベッドに唾を吐き捨てた。
「また、墨汁を飲ませてやる……」
瑠美は、ほんの5,6時間ほど前まで静江の淫芸としての習字を練習するところに、
雑用係としてリディアを立ち合わせたことを語った。
リディアが正座しながら墨を硯の上で摺っていたのだが、
「摺り方が悪い」と言って美紀に蹴られたはずみに墨汁を低テーブルの上に零してしまったのである。
瑠美は、その墨汁をリディアに舌で舐め取らせたのだ。
最後に、余った墨汁をリディアに強制的に飲ませたのである。
硯や筆までリディアの舌で舐め取ってキレイにさせたのであった。
瑠美はそのまま部屋を出て、深夜の階段を地下室へと降りて行く。
敬吾も仕方なく続いていく。
地下の調教室には、檻が二つ並べられており、手前の檻の中で、哀れな性獣である静江が眠りについていた。
瑠美は棒で寝ている静江を思い切り突付いた。
「静江、起きなさい」
静江にとり、瑠美の命令は絶対である。
静江は目をこすりながら、瑠美に言われて檻から這うようにして出てきた。
「あたし、亀甲縛りをみたい」
瑠美のリクエストはすぐに実行された。
敬吾は縄で素早く的確に静江の白くほっそりとした肢体を縛っていく。
股に食い込んだ縄は残酷にも静江の敏感な突起物を刺激している。
敬吾に縛られた静江は存在自体が芸術作品といえた。
「もうこれでいいですか」
敬吾が冷静な声で瑠美に言った。
「いいわよ」
瑠美が満足げに頷いた。
「いつみても佐藤さんの縄師ぶりは惚れ惚れするわね、ほんとにすごいよ、あんた」
敬吾は相変わらず無表情のままであったが、目の辺りがほのかに赤くなっていた。
「佐藤さん、ありがとう。面白かったわ。ゴメン、もう寝るね、おやすみ」
瑠美は静江を檻に戻すと、敬吾に軽やかに手を振って、階段を駆け上っていった。
敬吾は自室に帰り着くとベッドの下から、機械を取り出した。無線機のようにも見える。
敬吾はくぐもった声でなにやら話すと、そのままベッドに入り、深い眠りに落ちたのであった。
出井に連絡が入った。
所轄警察署からの連絡に、出井は受話器を握ったまま小躍りした。
慶蔵の関与する人身売買組織に絡むキーマンと思われる津島四郎の身柄拘束に成功したのである。
津島は、3ヶ月前にタクシー運転手に酔って暴行した容疑で逮捕され、取調室に連行されたのであった。
早速、山科警部と葉山刑事が津島を留置している所轄警察署に派遣された。
津島は黒のカラーシャツを胸まで肌けており、足を投げ出すように座って、
ふてくされたように腕組みをしていた。
「山野慶蔵を知っているね」
山科の質問は常に短く単刀直入である。
「ああ」
津島は面倒くさそうに答えた。パンチパーマに手を入れて、掻き揚げる様な仕草をした。
(この男にも任侠の世界に生きる者としてのプライドがあるだろう)
山科は津島から自白を得ることが難しいことを感じていた。
「お前、山野建設の広島支店開設パーティーに行っただろう」
「何すか、それ?」
「とぼけるんじゃない。お前がそのときに広島方面に出かけていたのはもう裏が取れているんだぞ」
葉山が目を怒らせて話しに割って入った。
「ああ……。そういえば行ったかもしれませんね。でもよく覚えてないですよ」
津島はとぼけたような表情で、葉山を見た。
「そのパーティーでは裸の女がいただろう。山野の性的奴隷になった女だ」
「よく覚えていないっす」
さすがに刑事の取調べに慣れている津島はのらりくらりしていた。
「それじゃ、別の話しにするか。お前は今まで何人の女を山野慶蔵に売ったんだね」
「何のこと言っているのかわからないっすよ」
「そうか」
山科はあっさり引き下がった。
今の段階では津島が具体的に人身売買を行った日付は割れていなかった。
山科は帰りかけて、再び津島に向かって振り返った。
「ところで、狭山憲明は元気かい?」
殺しても死なないような面構えの津島の顔色が明らかに変わった。
狭山憲明はある意味で正体不明の人間であった。
特に、組織に属しているというわけではなかった。
闇社会では、10年以上のキャリアがある人身売買ブローカーとも噂される男である。
粘り強い追及にもかかわらず津島は狭山の居所について、自白することはなかった。
しかし、なんとしても狭山の居所を割り出さなければならないであろう。
悟の証言から、敬吾が人身売買組織に大きく絡んでいると睨んだ捜査当局は、
徹底的に敬吾の尾行を進めることとした。
黒ずくめのスーツを着込んでいる敬吾の写真が捜査員に渡された。


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