sinさんの作品

えり 断章 番外編  藤本明子の憂鬱 2



 サークルの部屋に入ろうとしたとたん、強烈な匂いが明子を襲った。
 ムッ、とする性臭、オスの匂い。
吐き気を覚えたが、教室の床に倒れているえりを見つけて、それどころではなくなった。
 この教室で何があったかは、えりの状態を見れば想像がついた。
素っ裸で汚らしい液体と血にまみれている女の子は、ズタボロだった。
乳首には、安全ピンで留められた名札が刺さっている。
 あまりに痛々しくて抜こうとすると、えりが断った。
「これはいいの、私は奴隷なの。本当のことなの。」
 金田えりは、明子の手をとろうとはしなかった。
 自分は好きで奴隷になったのだから、放っておいて。
サークルの人たちがあなたを狙っているから、気を付けて。
「あなたみたいに、友だち友だちっていう人間は大嫌いなの!」

 藤本明子は、誰も居ない教室で立ち尽くした。
 私はどうしたらいいの?
 警察や学校に言うべきじゃないの?
 それとも、えりの言うとおり好きでやっているのなら、いいの?
 いいえ、あんなの強制されているんだわ。
 でも、私が通報した事で、えりの立場が余計に悪くなるのでは?
 悩みに悩み、考え抜いたが、結論は出なかった。
 明子が不用意に事件をを大きくする事で、えりに一生モノのキズや、
トラウマを与え、人生を傷つけるかもしれない。そんな決断はできなかった。

 自分の事なら、すぐにでも警察や学校、大人に相談するんだけど、、。そう思った。
 しかし、明子はそうはできなかった。
自分の身に、火の粉が降りかかって初めて、
イジメという虐待とはどんな「力」を持って人間を破壊していくのか、思い知るのだった。


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