えりさんの作品

えり 断章 番外編  藤本明子の憂鬱1 明子の気持ち1


   振り下ろされた鞭で、何条もの跡が走った自分の身体を鏡で見せられ、
私は「これが自分だろうか」と思いました。
 えりが「痛みから逃げようとしちゃダメ。出来るだけ声も出さないようにして、内側に押さえこめば、
耐えられるわ」と教えてくれていたので、痛みに関しては、ある程度覚悟がありました。
 ですから自分の姿を見せられたショックのほうが大きかったのです。
 でもいまから考えたら、あの瞬間がそれまでの私から解放させてくれた
「なにか」だったのかもしれません。
 
 はい。私の名前は藤本明子。これまでえりの告白に登場してきた大学生です。
 最近あの告白を読ませてもらって、「私のこと、こんなふうに思っていたんだ」と驚きました。
でも、たしかに、昨日までの私は、あそこに書いてあったように、地味で真面目な大学生でした。
 奴隷になってからだって、それは変わっていません。
 ただ、私の日常の中に、鏡で自分の姿を見たときのような、信じられない瞬間が来るようになったのが、
大きな変化です。

 私は何が幸福でなにが不幸かもわからないくらいには、幸福な若者でした。
大学も、屈辱を感じるほど低いレベルの学校に入ったとは思いませんでした。
成績と私が属する階層からして、妥当な選択だと思っています。
これといった比較する基準はありませんが、充実した学生生活を送っていたのではないでしょうか。
新聞配達のアルバイトをしていましたが、生活を助けるという意味より、
もともと贅沢はしない性格ですので、このままでいけば、ちゃんと4年で卒業できるし、
それがまあ目標といえば目標でした。

 外で遊んだりはしませんでしたが、学校で話す友だちは出来ました。
えりもその一人でした。
夏休み前から、あまり話さなくなりましたが、そういうこともあるのだろうというぐらいに思っていました。
親しい友だちが理由もなくいつのまにか変わるということは、高校時代まででも珍しくありませんでしたから。
 でも、えりとはなんとなく、大学に入ってからの友だちでは一番気が会うと思っていたので、
疎遠になったような気がしたのはちょっと残念でした。
やっぱり私のような地味な人間と話していてもつまらないのかなと思いました。
彼女が出入りしているという派手なサークルに私自身は入ろうとは思いませんでしたが、
彼女が大学で色んなことを経験するのはいいことだとも考えていたのです。

 はい。それも含めて、私は世間知らずだったんですね。
 えりはサークルに「部員」として参加していたのではなく、
「奴隷」として入るのを許された存在だったのですから。
 そして私も、このサークルにもし入るとしたら、同じ存在にならなければならない身分です。
裕福でない女の子をそういう対象にする世界があるという噂は、私の耳にも入っていたはずなのに、
受け入れたくないという気持ちからでしょうか、私は十分な認識を欠いていたのです。
 私たちの生きる世の中には、たくさんの悪意が存在しているということに、私はまだ無自覚でした。

 「わたし、中学生のとき、性処理肉奴隷だったの」
 秋の始まりの真夜中に、えりから電話がかかってきました。
 えりの電話は、彼女が過去にどんなイジメ、性的虐待を受けていたか、という告白でした。
始めは私もえりが自分のことを話してくれていると思って、必死に耳を傾けていました。
でも途中から、なにかとても気味の悪い気配を感じたのです。
 それは、誰かの悪意でした。
 いまから思えば、えりが強制されて言わされていることを察知できていたのかもしれないと思います。
 なにかとんでもないことが起こっている。それだけは私にもわかりました。
 電話が切れてから、居ても立ってもいられず、大学の旧サークル棟へと向かいました。
えりが参加しているという噂のあるサークルは、そこをたまり場にしていたからです。
 もともと、えりの電話で起こされたときから、
新聞配達の時間が来るまで起きていようと思っていたので、私は急いで身支度をして外に出ました。

 私はそのとき、得体の知れない悪意の存在を予感しながら、
そこに自分も巻き込まれるとは考えていませんでした。
 ただ、えりを助けたいと思っていた。そんな力もないくせに。
友情で、多少のことならなんとかなると思っていたのです。
 そんな自分の甘さを反省しています。
 いや、反省というのは奇麗事です。
 正直言うと後悔してます。
 電話を切った後、私はそのまま自分の日常に戻ればよかったんです。
「私はあなたとは違う世界の人間なの」と言ったえりの方が正しかった。
扉を開いてしまったいまとなっては、それがわかります。

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