えりさんの作品

えりの新いや〜ん、あんあん 1



  A県N市の中学二年生がいじめられて首つり自殺をし、便せん四枚にびっしりと遺書を残しました。
 この事件はいまから一六年前に起きた事件で、<いじめ>というものが、
昔から子供社会にあった生やさしいものではもうなくなっているということを世間に知らせたのです。

 彼は小学校六年生ぐらいからいじめられていましたが、中学になったら前より「ハードになった」と遺書に書いています。
 自ら「ハードになった」っていう言い方が、遺書にしてはやっぱり子どもっぽくて、それがなんだか切ないですね。
 でも、どんな風に「ハード」だったのか、怖いけれど覗いてみたい気にさせられます。

 具体的には、お金を取られるようになったのです。それも、中二になってからは、毎週、休みの前には多い時で六万円、
少ない時でも三〜四万円は取られるようになったといいます。
 大人でもこの金額はつらいですよね。

 そんなことに従った理由は、川に連れていかれて、顔を水に漬けられ、窒息させられそうになる責めを受けたからです。

 たしかに「ハード」です。窒息死の恐怖を味合わせて、高額のお金を巻き上げるのですから。
ある人は、この事件のようなハードないじめのことを<ウルトラ級のいじめ>と呼びました。

 「もっともつらかったのは、僕の部屋にいるときに彼らがお母さんのネックレスなども
盗んでいることを知ったときは、とてもショックだった」(遺書より)
 学校では友達もおらず、家族だけを大切に思っていた彼は、家にまであがりこまれて母親の金品を物色されて、
どんなにか胸を押しつぶされるような思いをしたことでしょう。
彼は、家族が優しくしてくれなかったら、
自分はもっと早く自殺していたに違いないと遺書に書いています。
遺書の文面も家族への感謝に満ちています。
やさしい子だったのです。

 そんな彼が「自殺」という、もっとも家族が悲しむ選択をしなければならなかったほどの<いじめ>。
 なのに、彼は、遺書にこう書いています。
「僕からお金をとっていた人たちを責めないで下さい。
僕が素直に差し出してしまったからいけないのです」

 お金を「とられた」と言っても、親の金を盗みだし、いじめっ子に持っていったのは彼本人なのでしょう。
そのことの罪悪感に、正直な彼は責めさいなまれていたに違いありません。
だから懺悔のしるしとして「1140200円」という母親への手書きの借用書まで遺していったのです。
この遺書はあくまで親への「告白」であって、決していじめっ子への「告発」ではなかったのではないでしょうか。

 彼は遺書に、つらかったり悲しかったりする感情は素直に書いていますが、
いじめっ子への怒りや憎しみは一言も書いていません。

 なぜ彼は、いじめっ子の目の前ではなく、一人で書いた遺書の中でさえ、
いじめっ子への怒り憎しみを書かなかったのでしょうか。
これは気になるところです。
 直接怒りを書かないで、事実を暴いてくれと親に託したのでしょうか。

マスコミに公表された遺書には、遺書の原文からはいくつか略されているところがあります。
 そして「自分にははずかしくてできないことをやらされたときもあった」とも書いてあります。

 私はこう思います。
 略されているところにはきっと、もっとすごいいじめが書かれていて、それは、お金を取られたり、
暴力をふるわれるよりも、普通だったら人として恥ずかしくて出来ないことなのだ、と。

  そうです。彼がされていたのは<性的いじめ>だったのではないでしょうか。
  「自分にははずかしくてできないこと」……外見的に幼く見え、小柄だったという彼は、
たぶんまだオナニーを経験していなかったのです。
それをいじめっ子たちによって強制的に教え込まれたのではないでしょうか。

  少年は自らの右手でペニスを握り、射精に導いたはずです。その行為は強制でも、彼はみんなの前で気持ち良くなって、
最後はイッてしまったに違いありません。
少年にそこまで自分でやらせないと、その日のいじめは終わらなかったでしょうから。

  彼はいじめの中でオナニーを覚え、初めて性的快感を知ったのです。

  しかし彼の純粋な良心はそれを許さなかった。自分の大切な家族からお金や財産を持ちだすという、
彼にとって最も大切にしたいものを裏切る行為を強制し、
そして日常的に暴力をふるってくる人たちによって快感に目覚めさせられてしまったことを。
 だから自分を自分で罰して、死んでいったのではないでしょうか。


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