山女さんの作品


黄金の月日(第五回)


 掃除を終えて教室に帰ってくると、
「もうすんだのかよ、早すぎないか」
 メグミが言い、
「チェックしに行こうぜ、みんな」
 私はまた、トイレに連れて行かれた。
「きれいになってるんだろうな」
「はい」
 私はもう逆らう気力もなくして、うつむきながら素直に答えた。
「聞こえないよ!」
 トイレに入りきれない人だかりの向こうから声がした。
「はいっ! きれいになりましたっ!」
 私は悔しさでとぎれそうになりながら、叫んだ。メグミは、
「どのくらいきれいになったんだよ」
「どのくらいって……」
「お前と私らとじゃ基準が違うんだよ」
 そうよ! と何人もの声がした。
「お前が舐められるくらいきれいなトイレじゃないと、私らは駄目なんだよ」
「舐める?」
「そうだよ。本当にきれいになったんなら、ここで便器を舐めて見せろよ」
 このとき、メグミは本気で私を殺すつもりだと思った。
たしかに、3年にあれほどの責めをうけ、それが私のせいだと逆恨みしているのなら、
殺しても飽き足らないだろう。
あのリンチのあと、メグミは治療のために2週間も学校を休んだ。
仰向けに寝られるようになるのに1週間かかり、またモップをつっこまれたことで、
危うく子供の産めない体になるところだったという。
「舐めろよ、ほら、舐めろって言ってるだろ」
 もう限界だった。
意地も、なにもかも。
私は立っても居られなくなり、しゃがみ込み、顔を手で覆って泣いた。
 どうしたらいいの? どうしたら気がすむの?
 舐めろ!
 舐めろ!
 舐めろ!
 トイレに響く合唱に私はついにキレてしまった。キレて……
 四つんばいになり、便器を舐めたのだった。
 ギャーッと、トイレは阿鼻叫喚の騒ぎになった。
 そして固唾を呑んで見守る気配があった。
「全体をていねいに舐めるんだよ」
 お尻に足が置かれたような気配があった。
 ふと、死んだら楽だろうな、と思った。
死んで行く地獄がどんなとこかわからないけど、この底なしのイジメ地獄よりは
マシだろう、と思った。

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